男は外に出てすぐ、スマホを取り出して耳に当てた。
42歳、若いうちに事務所を立ち上げ社長となり、たくさんのアーティストを世に送り出した。
世の中の人間たちは表の輝かしい部分をみて憧れ、裏で闇を求めて時には一斉に攻撃する。
群れは、簡単に動く。
自分の理想の道を歩むために、この世界は綺麗ではいられない。
「ああ、もしもし、うん、無事無事。朝倉がいくら喋っても証拠は出ないし、賀川は口封じで金渡すか始末するかしといてくれない?」
緩めたネクタイを締めた男は、目の前にとまっている高級車の後部座席へと乗り込んだ。
「あとさ、ヒルイ探し、警察に頼るのやめたよ」
窓にうつる自分の髪を軽く整えながら男は笑った。
「なんかあいつ音楽で真実を暴こうとかなんとかしてるみたいだよ、天才の考えることってやっぱりイカれてるよね」
まだ自分の視界に警察署がうつっているのが腹立たしく、運転席を後ろから軽く蹴ると運転手は頭を下げたあと車を発進させた。
「ヒルイ、どこまで調べてるか知らないけどさ僕たちでさっさと捕まえて殺すか、早いとこその薄汚れた正義感の塊見つけ出して消すかどちらかにして」
ーーーー「彼女が真実を暴くのが先か、私たちがあなたを捕まえるのが先かそれだけの話ですよ、和田橋さん」
そんな選択肢、あってたまるかってんだ。



