「2人ともヒルイの居場所、追ってるんでしょ?」


日菜と九条は顔を見合わせた。
真中は、何かを知っている。


「なぜそれを?あなたは、ヒルイの居場所を知っているんですか」


日菜の問いに真中はにこりと微笑んだ。
そしてゆっくりと首を横に振る。


「居場所は知らないけど、彼女が私に託したものがいくつかあるの」


真中はポケットから長方形の紙を2枚取り出す。
そして日菜の方に差し出した。受け取ろうとした日菜の手首を真中は自分の方に引き寄せて日菜の耳に口を寄せる。


「ピタゴラスの部屋」


日菜にだけしかきこえないような声量でそう言った真中。日菜のからだは硬直した。真中は一歩足を下げてまた距離をとると日菜の手に渡った2枚の紙を瞳にうつす。


「それ、あげます。今度ヒダカモルンっていうバンドがライブするんですよ。私ボーカルやってて、ぜひ聴きに来てくださいね!」

「なっ、なんで…」

「これでも人気なバンドなんですぐ埋まっちゃうんです。もったいないから2人とも絶対来てくださいね」


日菜は真中の言葉がほとんど頭に入っていない。
九条が心配そうに「どうした」と声をかけるが、震える声で「大丈夫です」としか言えなかった。
そんな日菜をよそに真中は九条の方にからだを向ける。


「九条さん!」

「なんだ」

「私今度、老人ホームで音楽療法もかねて歌謡曲ライブするんですけど、アドバイスもらいたいので一緒に来てもらえませんか」

「え」と戸惑ったように声を出した九条。
真中は九条の手を握り上下に大きく動かす。


「お願いしますよ、私幅広く活動していきたいので」

「真中さん」


日菜は横から声をかけた。真中は笑顔で日菜の方に向く。

「なぜ、私と九条さんの名前を?それから、九条さんが音楽療法士なのをなぜ知っているんです」


真中は表情を変えなかった。
「決まってるじゃないですか」と。



「ヒルイからきいたんですよ」