彼女が真実を歌う時




待ち合わせはスーパー『いろはと』の裏の出入り口である。今日も今日とてけたたましいスーパーの音楽が扉が閉まったままでも聞こえてくる。

そして、色はほとんどないに等しい白い出入り口の真上には右から左へ『いろはと』と掲げられている。

暑さにより額に滲む汗を日菜は手の甲で拭っていると、日菜のもとへ男が歩いてくる。

以前とは違い、グレーのパーカーを着て現れた九条であった。髪の毛も起きたてとはいかないが無造作に手ぐしで整えたようである。親子の前にあらわれたときは横に流していた前髪は下に向かって伸びており瞳を隠していた。

「九条さん…」


「ああ?」


ヤンキーさながらの顰めっ面。「何か文句あるのか」と言いだしそうであったため、日菜は「いえ、なんでも!」とへらりと笑った。


「すみません、急に呼び出して。パンの歌について自分なりに考察をしてみたのですが九条さんの意見もききたくて」


「ああ、『パンの歌』ね」


九条は面倒くさそうにそう言った。何か分かったら連絡をすると言ったのは日菜からの連絡をやめさせるための嘘だった可能性を日菜は疑いはじめた。やりそうである、九条なら。


「まず、『ソドシラの道』というのは『愛の歌』と繋がっていて、このスーパーの道沿い。それに、彼女があえて『ソドシラ』にしたのはこの道を示すためだったのかなと思いまして」


日菜は裏の出入り口から続いている道を人差し指でさした。
九条はあくびを噛み殺しながら「なるほどね」と呟く。


「では、行きましょう」

「どこに」

「この曲が示す道の通りに、です」


九条は心底面倒くさそうに背中を丸めて「そんなことだろうと思った」と日菜を軽く睨む。日菜は九条にたいしてむっと顔を顰めて『解せない』と顔面にあらわした。
そもそも何か分かったら連絡をすると言ったではないか。と、言葉に出そうとしたが日菜が一歩九条に近づいたと同時にその親指が手に持っていたスマホの画面を触った。
表示されていたそれが再生される。リズミカルなギターのイントロが流れ出す。


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ソドシラの道 スキップで進んで

白い偽りを右


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日菜は曲をとめた。
そして九条を見上げる。



「ひとまずこの道をスキップで進んでみますか」


「冗談だろ」