彼女が真実を歌う時



大宮は日菜が座っている横の椅子に腰を下ろして、細田朱莉の情報の紙を人差し指で軽く叩く。

「どういう仲だった」

「私、大宮さんに疑われてるんですか」

「気にすんな、ただの世間話だよ」


そう言う大宮の瞳は『疑い』を含んでいることを日菜は分かっていた。大宮はそういう刑事だ。
日菜は自分を落ち着けるようにゆっくりと息を吐いて口を開いた。


「同じ高校でしたが、3年間違うクラスでした。私のゆう」

「ゆう?」

「ゆ、友人の、クラスメイトで、数回話したことがある程度です。卒業してからは一度も会っていません、カリンのマネージャーだったということも今知りました」

大宮は頬杖をついて日菜をじっと見つめたあと再度紙に写っている細田朱莉の写真を視界に入れて「まあだろうな」と呟いた。


「さっきの反応はそうだろうし、そもそもお前細田朱莉が死んでたことも知らなかったんだろ」

「はい」

「まあ、昔何があったかは今は聞かない。よってこのことは上には報告しない。引き続きこの事件のことは調べるぞ」

大宮は切り替えるように両手を叩いて立ち上がった。そして細田朱莉の資料を手にとって軽く揺らす。


「もしかしたら今回の花田瑠衣歌の件に関わってる可能性もある」

日菜は大宮の言葉に変な緊張を覚えた。額に汗が滲む。一度でも取り乱せばきっと自分はこの事件から外されてしまうだろうと日菜は分かっている。だからこそ、自分の過去に関わりのある人物が今回の件に関わっていることは一旦忘れてしまおうと思った。
しかし、一度こびりついた『嫌な予感』と言うのはなかなか拭えるものではない。
日菜は手の甲で額を拭う。大宮はそんな中、人差し指を上に向けた。

「それに気になる点がもう1つ」

「ハルカゼスターのことですか?」


大宮は「ああ」と返事をして部屋の端に置いてあるホワイトボードを持ってきた。そして黒色の文字で白を埋めていく。

「気になるのが時系列だ。まず、カリンのマネージャーが轢き逃げで亡くなったあと、男性アイドルの薬物疑惑の記事、それから」


大宮は右に矢印を書いたあと『カリンへの誹謗中傷、自殺』と書いた。


「マネージャーが死んでから、カリンへの誹謗中傷の間に結構な間がある。その間にアイドル薬物疑惑の記事が出てんだよな。

記事の火消しでカリンの誹謗中傷を事務所が企てたとしたら全くクリーンな事務所ではない。人が死んでるしな。そんで極め付けはこれ」


大宮は新しい資料を日菜の前に置いた。凄まじい数の名前が連なっており、ところどころにマーカーで線が引かれている。青色とピンク色で分けられており、若干青色の方が多い。


「ここ数年の事務所をやめた連中をあらった。ピンク色で塗られているのが今グレーなことをやっているやつらだ」

ピンク色がグレー。色の羅列に大宮は気づいていないのかボケたつもりもないのか日菜の不思議そうな顔に「なんだよ」と顔を顰めている。


「グレー…」

「まあ、暴力団絡みのことだったり風俗関係だったり、そういう仕事をやってる」


意外といる。日菜は率直にそう思った。
事務所側は辞めているから知ったことではないということだろうか。
日菜は色のついている名前の欄を人差し指でなぞる。
ピンク色より少し数の多い青は一体。


「青色は、」

大宮は少し躊躇うように息を吐いた。



「退所後、しばらくして行方が分からなくなっているやつらだ。もちろん、その薬物疑惑がでていたアイドルもその中にいる」