「暇だよなこいつらも。やってたかって変な憶測たてて楽しんでてさ」

SNSを自らの携帯で眺めながら大宮がつぶやく。
それは同感だった。日菜は大宮の言葉に小さく頷きながら再度血のついたナイフの写真を見つめる。

これは、ヒルイの部屋から出てきたものであった。そして刃に付いていた血はヒルイのものである。
この1つのナイフによって警察は事件性があると判断し、動き始めたのがほんの数日前。

まだ、手がかりが掴めていないのが現状だ。
そもそも、ヒルイは顔を出しをしておらず生身の姿で世間から注目を浴びていたわけではない。

彼女が表舞台でみせていたのは、かわいらしいイラストだった。

現代では、キャラクターのような2次元のものになりきって活動するアーティストもでてきており、彼女もそのうちの一人である。

黒髪が腰のあたりまでのび、アニメに出てきそうなぱっちりとした瞳。学生のようにみせるためか制服をきせて短いスカートからは細い足がすらりと地面に向かって伸びている。


「金髪に何個もピアスをあけて、腕にはタトゥーか。俺さ娘にヒルイの本当の姿口が裂けても言えねえわ」


「そういうルッキズムが嫌で顔出しをしていなかったんじゃないんですか、いいでしょうどんな見た目でも」


「ルッキズムがどうとかじゃねえよ、ただ単にイラストと本物のギャップで驚いたって話だろう、頭かてえな若月は」


舌打ちをした大宮。日菜は負けじと聞こえるような大きなため息で対抗した。
花田瑠衣歌がイラストと正反対なのは確かであった。彼女が意図的にそうしたのか、事務所の強制だったのかは分からない。


「若月、1つお願いがあるんだ」

先程まで机や椅子に項垂れていた大宮が立ち上がって日菜の前に立つ。デリカシー皆無の不真面目な大宮から刑事の大宮の顔つきになったため、日菜は背筋を伸ばした。


「花田瑠衣歌がここ数ヶ月足繁く通っていた場所がある」


「え?」


大宮はたくさんある捜査資料からある一枚の紙を取り出した。


「話、きいてきてくれ。事務所の奴ら以外で唯一失踪前に会っていた男だ。何か知ってるかもしれない」


大宮のそれは、この男が何かをしている、もしくはヒルイに危害を加えた容疑者であることを疑っているような口ぶりであった。