ギターとともに聴こえた女の子の声は泣きそうで、だけどどこか嬉しそうで、楽しそうで、不思議だった。

美奈子は泣き声をおしころすように口元に手を当てて何度も何度もその曲を聴く。
音量を上げてきけば、微かに宗馬の声が入っていた。
あの公園で2人で録音したのだろう。

美奈子はスマホを手に取って、奥の部屋で1人で遊んでいる宗馬の前にしゃがんだ。

「宗馬」

名前を呼べば宗馬は地面におもちゃの車を走らせていた手を止める。
こうやって息子とちゃんと向き合ったのはいつぶりだろう。分かりたい、理解したいと思っているのに正面から息子と向き合うことから逃げていた。美奈子は頬をつたう涙をそのままに宗馬の頭を撫でる。


「愛の歌、聴いたよ。ありがとう」


そう言うと、宗馬は静かに美奈子の方に手を伸ばし美奈子を抱きしめた。


「愛の歌、僕の気持ち」



ーーー『ソドシラ、扉が開いたら、愛の歌、また小さな公園で歌おう』


スーパーの扉が開いたらね、大好きなお母さんが迎えにくるの。

あのスーパーの音楽が鮮明にきこえるたびにお母さんが来てくれたって嬉しくなってね、僕は名前を呼ぶその声が大好き。

だけど僕はうまくお母さんに大好きって伝えられないから気持ちを音楽にのせて『愛の歌』を歌っていようと思う。

不思議だ、ルイには伝えたいことが伝えられる。
ルイは魔法使いなのかな。


「完成したら、お母さんに聴かせてあげられるようにルイが作戦立てるからね。それまではしーだよ、宗馬くん」




1章【愛の歌】