彼女が真実を歌う時


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スーパー「いろはと」の出入り口にある防犯カメラ。
防犯対策で上から吊るされているそれは、日菜の推測通り公園の入り口付近まで映し出されている。


「本当に花田瑠衣歌なのか?その『ルイ』ってやつ」


「私はそう思います」


防犯カメラの映像を署に持ち帰り、最新のものから遡って見ていく日菜。映像を一時停止し目薬を差した後再び映像の向き直る。そんなこんなで5時間以上は経過していた。
そんな日菜の姿を遠巻きでみていた大宮が近づいてきて映像を覗き込み怪訝な顔をする。


「で、どうだ」


「先日出会った親子はほとんど毎日スーパーに来ていますね。そして子どもを1人公園に置いて母親だけがスーパーに入ってます」


「不用心な気もするな」


「ええ」


あの母親の様子も少し気になっていた日菜。そしてあの親子とスーパーと愛の歌、それから花田瑠衣歌との関わり。
ここで接点を見つけないと話を聞こうにも聞けないことは分かっている。
日菜は映像に映り込む人々を1人として逃さないように見つめる。

「あ」

映像は8月25日、血のついたナイフが見つかる前ではあるものの花田瑠衣歌についてすでに警察が動き出している日にちである。時刻は16時。
1人の女性がギターを背に抱えて公園に入った。
日菜は映像を一回止めて、そして少し早送りをする。
すると、10分ほどたって1人の少年が母と別れて公園に入っていった。


「大宮さんっ」

日菜のもとから離れかけていた大宮を日菜は呼び止める。映像を巻き戻し、その女性が防犯カメラにうつっているところで映像を止める。
日菜は画面に顔を近づけその人物を人差し指で示した。


「この女性、似ていませんか」

「あ?どれだ?」

「指どけろ、見えないから」と日菜の手を払いのけて画面をじっと見つめる。
金髪のボブ、黒色のTシャツと黒色のロングスカートを着てマスクをしているその女性。
日菜は手元に置いている花田瑠衣歌の写真を横に並べた。


「似てるな」


「やっぱり!」


「断定はできない。ちょっと待ってろ 浦井!ちょっとこっち来い」

「浦井」と呼ばれた男は大宮の方を見るなりげんなりとした顔でこちらに寄ってくる。

「これ、解析できるか」

「ええ…俺今から帰るとこなんすけど」

浦井は捜査一課でも日菜とは班が違い絡みもあまりない方である。
そのためこのタイミングでなぜ浦井を引き止めたのかよく分からず首を傾げた。
大宮は不敵な笑みを浮かべ浦井の肩に腕をまわす。


「お前SSBC入りたかったんだろ」

大宮の言葉に浦井は目を見開く。なぜ知っているのか、と。
SSBCとは捜査支援分析センターと言われる場所で、画像解析やスマホの解析などの捜査にあたる刑事部の中の1つの部署だ。

「それはそうっすけど、俺今普通に捜査一課なんで、普通の刑事なんで!勘弁してくださいよ、徹夜明けでやっと非番なんすよ。それこそさっさとSSBCでもなんでもまわしてもらっていいっすか」


「急いでんだ頼むよ、この事件解決したらお前の功績を上に伝えてお前は晴れてサイバー捜査官の仲間入りだ、ほらさっさとやれ」


ほとんど強制的に浦井の体をパソコンの前に持っていく大宮。大宮の荒さと強引さはこのようにして役にたつのだと日菜は改めて実感する。拒否する間も与えていない。