彼女が真実を歌う時



「九条さんも、ヒルイのこと見つけ出したいんじゃないんですか」


「ヒルイ?」


「花田瑠衣歌さんのことです」


九条はポケットに手を突っ込み、ため息をついて日菜に一歩近づいた。
日菜より30センチ以上身長が高い九条の圧はそこそこ強い。だが日菜は負けないように目に力を込めて九条を見上げた。


「お前さ、花田瑠衣歌じゃなくてヒルイを見つけたいの」


大宮にも一度言われたことがある。行方不明なのは「ヒルイ」という名の「花田瑠衣歌」だと。
誰もが彼女を知り、彼女の音楽はそこらじゅうに存在し、生きている。日菜はそういう世間の中の特別な存在として彼女を見ていた。彼女の歌が、音楽が人を救っていると思ったからだ。だから、『ヒルイ』を探さなければならない。


「ど、どちらも同じ人物ではないですか」


「一緒だよ、一緒だけど、俺のところにくる彼女は『ヒルイ』の殻を破りにきていた。

俺たちと変わらない1人の人間で、世間からひどいことを言われれば普通に傷つくし、自分の存在価値に悩んで頭を抱えるようなか弱い女の子だったよ」


1人の人間だということは分かっているが、日菜にとって花田瑠衣歌という人間がよく分からないがゆえに世間からみる彼女にたいしてのものと同じような気持ちになってしまっていた。
九条はやはり花田瑠衣歌という素の人間が何を考えて、何を望んでいたのか理解をしている。
表面上に見えるものだけを探していたら、彼女、花田瑠衣歌を探すことはできないのかもしれない。と日菜は焦燥を滲ませた。

ーーー『ソドシラ、扉が開いたら、愛の歌、また小さな公園で歌おう』

表面だけをみて、なぜあの投稿をしたのかという彼女の気持ちの奥底を理解しようとしていた。だが、もっと別のベクトルへ向けないといけないかもしれない。なぜ、花田瑠衣歌という人間があの少年に出会い、あの投稿をしたのか。
日菜はぎゅっと拳を握る。


「すみません、ヒルイとしての情報は入ってきてるのですが花田さん自身の情報はまだ頭に入っていなくて…九条さんの言うとおりです。

警察官として、芸能人のヒルイではなく、1人の人間の花田瑠衣歌が何を考えて、どんな思いで消えてしまっているのか調べます」


「なので」と日菜は小さな声で言葉を接続させて、九条を見上げた。



「協力をお願いします」