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美結と別れたあと家から少し離れたスーパーで買い物をした日菜。
初めて入ったスーパーであったが、さびれているようにみえて品揃えは悪くなかった。まあたいしたものは買っていないが。
買ったものが入っている袋を持ち上げて日菜は自嘲した。ここのところ自炊もせずコンビニ弁当やお酒ばかりだ。
少しのつまみと缶ビールが2本入った袋をゆらゆらと意味もなく揺らし、鼻歌を歌いながら自動ドアの前に立つ。
自らの存在に反応してドアが開き、日菜は一歩外に出た。エアコンが効いていた中とは違い、外は蒸し暑く蝉が鳴いている。
それに、スーパーの中で流れていた曲がやけに頭からこびりついて離れない。
しつこいと怒鳴りたくなるくらい同じ曲が店内で響き渡っていたからだろう。外に出て背後で自動ドアが閉まっても店内で響き渡っていた音楽は少しこもるがそれでも聞こえてくる。
入り口付近にもスピーカーが設置されていた。
街を活性化させるためだろうが少し逆効果ではないだらうかと日菜は思う。
後ろを振り返れば『とはろい』とスーパーの名が書いてある。古くなりすぎて文字が剥げてきてはいるがかろうじて読めた。
「とはろい」
日菜は先ほどの美結との話を思い出した。
昔は文字を右から左に読んでいた。
ここは昔ながらの商店街沿いにあり、そして日菜が出てきたのは人通りの多い表の入り口ではなく、裏の入り口である。あまり塗装などはされていないのであろう。
店の外を小走りでぐるりと周り、表側の入り口に向かった日菜はそこに裏の入り口とは違い綺麗に塗装されている文字を口に出した。
「いろはと」
そして、入り口からすぐの細い道を挟んで向かい側に目をやった。そこには小さな公園。
自動ドアが開く。けたたましく鳴ったスーパー特有の音楽。
日菜は駆け出した。
ヒルイがいるなんてことは確率的に0パーセントに近いことは分かっている。
だが、本能で『繋がっている』と思ってしまった。
これを刑事の勘だというなら、また大宮にツッコミをくらうだろう。
公園に足を踏み入れてもなお、スーパーの自動ドアが開くと再び音楽がきこえていた。
息を整えて日菜は公園の中に入っていく。小さな公園のため遊具は滑り台と丸い1人分ほどの砂場しかない。
そして日菜はすぐそばにあるベンチに目をやった。誰かが座っていたからだ。
「え」
予想外の人物に目を見開いた。
相手は日菜を視界に入れて、顔を顰める。
「九条さん」
そこにいたのはあの音楽療法士であった。
状況が理解できずあたふたする日菜とは違い、九条はたばこの煙を口から吐き出して舌打ちをする。
話を聞きに行った時の印象とはまるで違う九条の姿に日菜はますます困惑した。
あの時は白衣を着て真面目そうな雰囲気であったが、今はパーカーを着て髪は少し乱れており、おまけにたばこを吸っている。
ドレミの歌を笑顔で弾くような風貌にはみえない今の九条の姿に日菜は呆気にとられ数回まばたきをした。



