ーーーー「あとは頼みます」
少女はそう言って男にあるものを差し出した。
怪訝な顔をして男はそれを見つめる。
受け取るか否か男は悩んだ。
これを受け取ってしまえば何かよからぬことが起きるんじゃないかと思ったからだ。
理由は分からない、ただ、そんな気がした。
なかなか受け取らない男に痺れを切らしたのか少女が男の手を取り、それを半ば無理矢理握らせた。
「…なっ、なっ、何もしないなら、それはそれでいい。聴きたくなったら聴いてくださいね」
少女はそう言って瞳に涙を溜めた。
弱い気持ちを拭い去るように一度瞬きをすれば、収まりきれなくなった涙が頬を伝った。
男がハンカチを取り出す前に少女は背中を向けて歩き出してしまう。
やるせない思いを抱えて、男は最後に少女に声をかけた。
「またお待ちしてます」
鼻をすん、と鳴らしただけで少女の返事はなかった。