「明日の朝には寮に戻るから、帰りながら響葵くんの家族を探そうか。きっと心配しているだろうし……」
「俺のことは気にしなくていい。君の身の安全が最優先だ。取り返しがつかなくなる前に、早くこの家族から離れないと……」
「血が繋がっている以上、完全には切れないよ。一時的に距離を取ることはできるけれど、どちらかが生きている限りは永遠に切れるはずない。悪いのは全部自分。爽月より優れていると思って真似して、爽月のように愛されたいと思った自分が……ううん。そもそもこの世界に生まれてきたのが間違いだったのかも」

 彩月がもっと早く自分の実力を理解して、爽月以下の存在でも良いと思えたのなら、ここまで辛い思いをしなくて済んだかもしれない。もしくは自分が愛されていないことに気付けないような間抜けだったら幸せでいられただろう。
 しかし愚鈍では無かった彩月は歳を重ねるにつれて気になってしまった。
 どうして両親は爽月ばかり優遇するのだろう。爽月の言うことはなんでも聞くのに、彩月の言うことは聞いてくれないのだろう。
 授業参観や運動会といった学校行事は爽月を優先して、家族写真も爽月の写真ばかり撮っている。
 爽月が欲しがるものは何でも買うのに、彩月の欲しいものは買ってくれないのだろう。
 同じ日に同じ母から産まれたのに、差があるのはどうしてだろう。
 両親は彩月の何が気に入らないのだろう。どうしたら両親は彩月を愛してくれるのだろうと、子供の頃はそんなことばかり考えていた。爽月よりも良い子にしていたら、爽月よりも勉強や運動ができたら愛してくれるのだろうかと思った。
 その答えは大学受験の際にはっきりした。両親はどうやっても彩月を愛する気はないのだろう。
 彩月が大学に合格していたとしても、反対に爽月が受験に落ちていたとしても、きっと爽月のように愛してくれなかった。
 両親の中で大切なのは爽月。彩月はそれ以下の存在でしかなかったのだから……。

「爽月のように愛されないと知った時や受験に落ちた時は悲しかったし、早くこの世界から消えてしまいたいとも思ったけれど。でもね、素敵な出会いもあったんだよ。もう自分の人生をかけても良いってくらいの最高の出会いがっ!」
 
 響葵を二階の自室に連れて行きながら彩月は興奮気味に話し続け、そうして約二年ぶりに自室のドアを開けたのだった。

「響葵くんは知ってる? 彗星の如く現れて、そして瞬くように消えてしまったアイドル。キョウくんこと、五十鈴響夜くんを!」