その声で顔を上げれば、響葵が爽月の指に噛みついていた。床に叩きつけるように響葵を放り投げると、爽月は噛まれた指を抑えながら「ママ、パパ~!」と両親に泣きつく。
それまで彩月が暴行される様子を見ていただけの両親だったが、爽月のわざとらしい泣き真似にまたしても烈火のごとく怒り始める。そして爽月の仇というように父が彩月の頬を叩いたのだった。
「爽月に傷痕が残ったらどうしてくれるんだ!? 爽月はこの家の宝だ! お前のようなただの穀潰しとは違うんだぞ!」
「この子は悪くない! 爽月が強引に掴むから噛まれるのよ!」
今もなお前足を前に出して威嚇を続ける響葵を彩月は抱き上げると、家族から庇うように自分の身体で隠す。しかし両親はそんな彩月に構うことなく、赤くなった指を押さえながら泣き続ける爽月を宥めていたのだった。
「可愛い爽月のせいにするなんて図々しい子ね! ねぇ、あなた、爽月。この子は放っておいて行きましょう」
「ママ、まだ痛いよ……」
「途中で病院に寄ってあげるわ。この汚いうさぎが変な病気を持っていたら大変だもの」
「ほら、早く用意しろ……いつまで座っている。邪魔だ」
「……はい」
玄関の隅に寄るとその場に直立する。まるで教師に注意されて廊下に立たされる子供のようだった。流れる涙を堪えようと下を向く。
「君……」
響葵が彩月にしか聞こえないような小声を掛けてくれるが、彩月は安心させるように響葵の首を繰り返し撫でる。そして頬の痛みを感じながら彩月は考えるのだった。
(早くこの家族と縁を切ってしまいたい、もう誰にも脅かされることなく静かに生きたい……)
やがて支度を終えて外に出て行く両親の舌打ちを受けながら、その場で俯いて靴の先を見つめていると、「ねえ、彩月」と爽月が声を掛けてくる。
「まさかその格好で就活しているの? 恥ずかしい。ただの笑われ者じゃない。まあ、あんたのような役立たずなんてどこの会社も雇ってくれないでしょうけど。私に似てもう少し顔が良かったら、社長秘書という名の愛人くらいには収まったかもしれないけれどね」
「……」
「そうね……双子の妹が無職なんて可哀そうだから、私がパパとママにお願いしてあげようか。彩月をこの家の家政婦として雇ってくださいって。あはははっ!」
「私……」
「口答えするんじゃないの。人間のゴミがっ! 事務所から私宛の荷物が届くからあんたが受け取るの。傷一つ付けることなく、部屋に運びなさい。大事な私のファンからの誕生日プレゼントなんだから」
「わざわざ私に受け取らせなくたって、明日受け取ったら……」
「はあ!? 明日受け取ったらバースデープレゼントじゃないでしょう!? 本当にどこまでいっても馬鹿なのね。ああ、そんな馬鹿だから好きなんだ。五十鈴響夜とかいう炎上逃げしたアイドルを」
「……っ! キョウくんは関係なっ……」
肩を突き飛ばされてよろめいている隙に爽月は外に出て行く。そして車のエンジン音が聞こえてきたかと思うと、すぐにどこかに走り去っていったのだった。
「キョウくんは関係ない……私を惨めな気持ちにさせたいからって、キョウくんを利用しないで……」
誰にともなく呟いてその場で涙を流していた彩月だったが、しばらくして腕の中から聞こえてきた「すまなかった」という謝罪の声で我に返る。
それまで彩月が暴行される様子を見ていただけの両親だったが、爽月のわざとらしい泣き真似にまたしても烈火のごとく怒り始める。そして爽月の仇というように父が彩月の頬を叩いたのだった。
「爽月に傷痕が残ったらどうしてくれるんだ!? 爽月はこの家の宝だ! お前のようなただの穀潰しとは違うんだぞ!」
「この子は悪くない! 爽月が強引に掴むから噛まれるのよ!」
今もなお前足を前に出して威嚇を続ける響葵を彩月は抱き上げると、家族から庇うように自分の身体で隠す。しかし両親はそんな彩月に構うことなく、赤くなった指を押さえながら泣き続ける爽月を宥めていたのだった。
「可愛い爽月のせいにするなんて図々しい子ね! ねぇ、あなた、爽月。この子は放っておいて行きましょう」
「ママ、まだ痛いよ……」
「途中で病院に寄ってあげるわ。この汚いうさぎが変な病気を持っていたら大変だもの」
「ほら、早く用意しろ……いつまで座っている。邪魔だ」
「……はい」
玄関の隅に寄るとその場に直立する。まるで教師に注意されて廊下に立たされる子供のようだった。流れる涙を堪えようと下を向く。
「君……」
響葵が彩月にしか聞こえないような小声を掛けてくれるが、彩月は安心させるように響葵の首を繰り返し撫でる。そして頬の痛みを感じながら彩月は考えるのだった。
(早くこの家族と縁を切ってしまいたい、もう誰にも脅かされることなく静かに生きたい……)
やがて支度を終えて外に出て行く両親の舌打ちを受けながら、その場で俯いて靴の先を見つめていると、「ねえ、彩月」と爽月が声を掛けてくる。
「まさかその格好で就活しているの? 恥ずかしい。ただの笑われ者じゃない。まあ、あんたのような役立たずなんてどこの会社も雇ってくれないでしょうけど。私に似てもう少し顔が良かったら、社長秘書という名の愛人くらいには収まったかもしれないけれどね」
「……」
「そうね……双子の妹が無職なんて可哀そうだから、私がパパとママにお願いしてあげようか。彩月をこの家の家政婦として雇ってくださいって。あはははっ!」
「私……」
「口答えするんじゃないの。人間のゴミがっ! 事務所から私宛の荷物が届くからあんたが受け取るの。傷一つ付けることなく、部屋に運びなさい。大事な私のファンからの誕生日プレゼントなんだから」
「わざわざ私に受け取らせなくたって、明日受け取ったら……」
「はあ!? 明日受け取ったらバースデープレゼントじゃないでしょう!? 本当にどこまでいっても馬鹿なのね。ああ、そんな馬鹿だから好きなんだ。五十鈴響夜とかいう炎上逃げしたアイドルを」
「……っ! キョウくんは関係なっ……」
肩を突き飛ばされてよろめいている隙に爽月は外に出て行く。そして車のエンジン音が聞こえてきたかと思うと、すぐにどこかに走り去っていったのだった。
「キョウくんは関係ない……私を惨めな気持ちにさせたいからって、キョウくんを利用しないで……」
誰にともなく呟いてその場で涙を流していた彩月だったが、しばらくして腕の中から聞こえてきた「すまなかった」という謝罪の声で我に返る。



