合否が発表されたその日から両親は優等生の爽月だけを愛して、彩月のことはあからさまに無視するようになった。元々両親は爽月ばかり優遇しているところがあったが、それが顕然になったとも言える。
そして彩月たちが通っていた高校で、その大学に合格したのは爽月ただ一人。爽月は教師や同級生からも賞賛を受けて、不合格だった彩月を気に掛ける者は誰もいなかった。まるで最初から存在しなかったかのように扱われて。
いや、もしかすると彩月が気付かなかっただけで、元から愛されていなかったのかもしれない。他の人たちも爽月の“おまけ”で相手をしていただけで、彩月のことは何とも思っていなかったのだろう。
それに全く気付かず、彩月は爽月のようになれたら愛してもらえると勘違いをしていた。同じ大学に合格できたのなら、爽月に夢中になっていた両親が関心を寄せてくれると。滑稽にも程がある。
そうやっていずれ存在を忘れられてしまうのならせめて記録としてどこかに残しておこうと、このSNSを始めた際に自分の誕生日を登録したのを思い出したのだった。
(そうだ。キョウくん!)
SNSに登録している名前で思い出した。こういう時こそ、推しに慰めてもらわないと。
彩月は就活用のバッグの奥底に大切に仕舞っていたボールチェーン付きのマスコット人形を取り出すと、夕陽が沈み始めた川辺に向ける。オレンジ色にキラキラ輝く水面を背景にして、可愛くデフォルメされた男の子のマスコット人形を片手に丁度良い角度を見つけるとスマホのカメラで写真を撮ったのだった。
そして立ち上げていたSNSアプリに写真を掲載すると、手早く文字を打って投稿する。
『誕生日なのに就活の最終面接で爆死。キョウくんに慰められ中』
泣いている顔文字まで付ければ、少しだけ鬱屈した気持ちも晴れる。このデフォルメされた推しのマスコット人形――キョウくんの少しぶっきらぼうな不機嫌顔も元気をくれた。
(今日の最終面接は緊張して大事なところで噛んじゃったけれども、明日からは気持ちを切り替えて別の会社を探そう。できれば実家から遠くて、社員寮があるといいな……)
そうして自分の気持ちを奮い立たせたところで、今日の記念にもう少し写真を撮ろうかとスマホのカメラで夕陽が照らす川面を撮影する。その時、カメラの隅に黒い毛の動物が写り込んだのだった。
そして彩月たちが通っていた高校で、その大学に合格したのは爽月ただ一人。爽月は教師や同級生からも賞賛を受けて、不合格だった彩月を気に掛ける者は誰もいなかった。まるで最初から存在しなかったかのように扱われて。
いや、もしかすると彩月が気付かなかっただけで、元から愛されていなかったのかもしれない。他の人たちも爽月の“おまけ”で相手をしていただけで、彩月のことは何とも思っていなかったのだろう。
それに全く気付かず、彩月は爽月のようになれたら愛してもらえると勘違いをしていた。同じ大学に合格できたのなら、爽月に夢中になっていた両親が関心を寄せてくれると。滑稽にも程がある。
そうやっていずれ存在を忘れられてしまうのならせめて記録としてどこかに残しておこうと、このSNSを始めた際に自分の誕生日を登録したのを思い出したのだった。
(そうだ。キョウくん!)
SNSに登録している名前で思い出した。こういう時こそ、推しに慰めてもらわないと。
彩月は就活用のバッグの奥底に大切に仕舞っていたボールチェーン付きのマスコット人形を取り出すと、夕陽が沈み始めた川辺に向ける。オレンジ色にキラキラ輝く水面を背景にして、可愛くデフォルメされた男の子のマスコット人形を片手に丁度良い角度を見つけるとスマホのカメラで写真を撮ったのだった。
そして立ち上げていたSNSアプリに写真を掲載すると、手早く文字を打って投稿する。
『誕生日なのに就活の最終面接で爆死。キョウくんに慰められ中』
泣いている顔文字まで付ければ、少しだけ鬱屈した気持ちも晴れる。このデフォルメされた推しのマスコット人形――キョウくんの少しぶっきらぼうな不機嫌顔も元気をくれた。
(今日の最終面接は緊張して大事なところで噛んじゃったけれども、明日からは気持ちを切り替えて別の会社を探そう。できれば実家から遠くて、社員寮があるといいな……)
そうして自分の気持ちを奮い立たせたところで、今日の記念にもう少し写真を撮ろうかとスマホのカメラで夕陽が照らす川面を撮影する。その時、カメラの隅に黒い毛の動物が写り込んだのだった。