「お誕生日おめでとう、彩月。生まれてきてくれてありがとう。俺を見つけてくれて……ファンになってくれてありがとう。ようやくアイドルをして良かったと心から思えることができた」
「響葵くん……?」
「居場所が無いなら与えて、家族がいないのなら俺がなろう。もう『生まれてきたのが間違いだった』なんて言わせない。俺のファンで月の姫だからじゃない。ただ君自身が好きで、これからも同じ時間を過ごしていきたいから言っている。そのためにも月の姫になって欲しい。共に生きよう。君を愛する者と一緒に……」

 そうして響葵は持っていた秋桜を彩月の髪に挿すと、彩月の額に唇を落とす。長いようで短い口付けが離れた後、彩月の両目からは涙が落ちたのだった。
 
「生きていていいの? 私……爽月が捨てたゴミから生まれた“おまけ”だよ……?」
「そんなはずないだろう。君は生きていていいんだ。姉のおまけや出来損ないではない。姉のようにならなくても君を愛する者はいる。あんな家族は捨ててしまえ」

 その言葉で胸の中がすうっと軽くなった。初めて響葵と出逢った時のように。
 ずっと生まれてきたことを肯定されたかったのだと、生きていてもいいと言ってもらいたかったのだと。ようやく自分の本当の気持ちを知れたような気がした。
 
「じゃあこれからも響葵くんのファンとして、響葵くんを推して良いの……? 月の姫になった後も……」
「君の生き甲斐を奪うつもりはない。君というファンのため、望むままにファンサをしよう。姫になって、夫婦の契りを結んだ後も……」

 長い指先が目尻に残る涙を弾き、どちらともなく笑みが浮かぶ。響葵に抱き寄せられると、彩月も響葵の腰に腕を回したのだった。

「あの日、救ってくれてありがとう。響葵くん」
「俺を見つけてくれてありがとう、彩月」
 
 彩月を抱く手に力が込められる。
 最愛の推しのハグはどこまでも優しくて心地良かった。