「えっ、ええ~!? キョ、キョウくん!?」
大好きな推しが目の前にいる状況についていけず、彩月は瞬きを繰り返す。夢でも見ているのかと両目を擦ってみるが、目の前の響夜は消えるどころか自身の手を見つめて、「やはり……」と呟いただけであった。
「触れられる度に自分の中に『月の加護』が溜まっていく気配を感じていた。やはり君が俺たちが探していた月の姫なのだな」
「ふぇっ!?」
「彩月っ!」
響夜の艶やかな唇から自分の名前が出たかと思えば、次の瞬間には響夜に抱き竦められていた。最初こそ混乱したもののやがて今の状況を理解して、心臓が大きな音を立て始めたのだった。
「キョ、キョウくん……?」
夢にまで見ていた大好きな響夜が目の前に現れたかと思えば、川に飛び込んで汚い彩月の肩に顔を埋めて抱き締めている。無言のまま縋る姿は、まるで長年離れていた恋人とようやく再会して感動のあまり言葉が出てこないというようで――。
聞きたいことは山ほどあったが、逃がさないというように腕に力を込められたので、彩月まで言葉に詰まって何も言えなくなってしまう。そのまま響夜の腕の中にいると、やがて「ありがとう」とポツリと呟かれる。
「俺のことを見つけてくれて、覚えていてくれて……うさぎから戻れなくなった俺を助けてくれてありがとう。君がファンでいてくれて良かった……」
「どういうことなの? 響葵くんがキョウくんに……っ!?」
「説明している暇はない。俺と一緒に来てくれないか。月が昇っている今がチャンスなんだ」
「チャ、チャンスって……どこに行くの!?」
解放されたかと思えば、手を掴まれて部屋から連れ出される。響夜は焦っているのか答えてくれなかったが、代わりに彩月の疑問に答えてくれたのはどこからともなく聞こえてきた女性の声であった。
――ようやく月の姫を見つけたのですね、響葵。
彩月がキョロキョロと声の出所を探していると、響夜が「姫っ!」と声を上げる。そうしてベランダに連れて来られるが、そこには天頂に昇った十六夜の月から伸びる白い光の道ができていたのであった。
(なにこれ……こんなものうちのベランダには無かったはず……)
やはり夢でも見ているのかと思うが、彩月の手を掴む響夜の感触は本物だった。響夜が光の道に足を乗せれば、地面のように踏みしめられた。彩月も腕を引かれて光の道に足を伸ばすが、同じように足が着いたのだった。
「さあ、行こう」
「行こうって、どこへ……?」
「俺の生まれ故郷。月の都だ」
響夜の生まれ故郷で、月の都とはどういうことなのかと思うものの、月に向かって駆け出した響夜の足が止まることは無かった。彩月は手を引かれるまま、ただ光の道を走り続けたのだった。
やがて十六夜の月が目前に迫ったかと思うと、月明かりに目を焼かれてしまう。庇うように瞼を閉じた彩月が次に開けた時には、どこかの和洋折衷様式の屋敷に辿り着いていたのだった。
大好きな推しが目の前にいる状況についていけず、彩月は瞬きを繰り返す。夢でも見ているのかと両目を擦ってみるが、目の前の響夜は消えるどころか自身の手を見つめて、「やはり……」と呟いただけであった。
「触れられる度に自分の中に『月の加護』が溜まっていく気配を感じていた。やはり君が俺たちが探していた月の姫なのだな」
「ふぇっ!?」
「彩月っ!」
響夜の艶やかな唇から自分の名前が出たかと思えば、次の瞬間には響夜に抱き竦められていた。最初こそ混乱したもののやがて今の状況を理解して、心臓が大きな音を立て始めたのだった。
「キョ、キョウくん……?」
夢にまで見ていた大好きな響夜が目の前に現れたかと思えば、川に飛び込んで汚い彩月の肩に顔を埋めて抱き締めている。無言のまま縋る姿は、まるで長年離れていた恋人とようやく再会して感動のあまり言葉が出てこないというようで――。
聞きたいことは山ほどあったが、逃がさないというように腕に力を込められたので、彩月まで言葉に詰まって何も言えなくなってしまう。そのまま響夜の腕の中にいると、やがて「ありがとう」とポツリと呟かれる。
「俺のことを見つけてくれて、覚えていてくれて……うさぎから戻れなくなった俺を助けてくれてありがとう。君がファンでいてくれて良かった……」
「どういうことなの? 響葵くんがキョウくんに……っ!?」
「説明している暇はない。俺と一緒に来てくれないか。月が昇っている今がチャンスなんだ」
「チャ、チャンスって……どこに行くの!?」
解放されたかと思えば、手を掴まれて部屋から連れ出される。響夜は焦っているのか答えてくれなかったが、代わりに彩月の疑問に答えてくれたのはどこからともなく聞こえてきた女性の声であった。
――ようやく月の姫を見つけたのですね、響葵。
彩月がキョロキョロと声の出所を探していると、響夜が「姫っ!」と声を上げる。そうしてベランダに連れて来られるが、そこには天頂に昇った十六夜の月から伸びる白い光の道ができていたのであった。
(なにこれ……こんなものうちのベランダには無かったはず……)
やはり夢でも見ているのかと思うが、彩月の手を掴む響夜の感触は本物だった。響夜が光の道に足を乗せれば、地面のように踏みしめられた。彩月も腕を引かれて光の道に足を伸ばすが、同じように足が着いたのだった。
「さあ、行こう」
「行こうって、どこへ……?」
「俺の生まれ故郷。月の都だ」
響夜の生まれ故郷で、月の都とはどういうことなのかと思うものの、月に向かって駆け出した響夜の足が止まることは無かった。彩月は手を引かれるまま、ただ光の道を走り続けたのだった。
やがて十六夜の月が目前に迫ったかと思うと、月明かりに目を焼かれてしまう。庇うように瞼を閉じた彩月が次に開けた時には、どこかの和洋折衷様式の屋敷に辿り着いていたのだった。



