「お願いします」
 声が聞こえる。
「私の学校を無くさないでください」
 知らない人の声だ。

「お助けください、お守りください」
 また違う人の声がする。
「どうかこの子だけでも、戦火から救ってください」
 ああ、泣いている。

「伏してお祈り申し上げます」
 また知らない人。
「どうか雨を降らせてください。このままでは渇き死んでしまいます」
 苦しそうな声。

「助けてください」
 この人は――。
「妹を助けてください」
 私は、この声を、この人を、知っている。
「お願いします、お願いします」
 泣いている。泣いていた。何も出来なくて、泣いていた。
「私にはもう出来ることがないのです」

 私には十分だったのに。
 手を引いてくれたそのぬくもりだけで、残りの四年を生きていけると思ったのに。

「かえしてください」
 震える声。
「おねえちゃんを、かえしてください」
 初めて、外の人と話をした。
 でも、その人は人じゃなかった。
「おねがいします、わたし、なんでもするから、おねえちゃんをかえしてください」

「……四年待て」
 でも、私は四年経ったらいなくなるのです。神様の花嫁になるのです。そんなに待てないのです。
「待っていてくれ」
 苦しそうに、神様はそう言った。

 その声があんまりにも苦しそうだったから、私はうなずくしかなかった。