黄怜が暮らす西の邸宅は、寝所以外、書物で溢れている。
陽葉が間借りすることになった小さな客間も、もとは大量の本が積まれていたが、さすがに布団を敷く場所がないので、それは全て書斎と奥座敷に持ち込まれた。
一日中あまり陽のあたらない西の邸宅で、黄怜は朝も昼も夜も、飽きることなく本を読んでいる。
読み終えた本は棚に仕舞われることなく床に散らかり、あっという間に足の踏み場がなくなる。
それで、陽葉は散らかる部屋の片付けをするようになった。
他の邸宅には身の回りのことを手伝う者がいるそうだが、黄怜のところにはそれがいない。
敷地内に誰かいるのが煩わしいそうで、食事だけ、必要なときに蒼樹のところで分けてもらっている。彼のところには、料理が得意な元花嫁がいるのだそうだ。
書斎いっぱいに散らばっていた書物を全て棚に片付け終えると、陽葉はしばらく手持ち無沙汰になった。
(そろそろ東の邸宅に、白米を分けてもらいにいってこようか……)
部屋の片付け以外に、陽葉は黄怜のために食事も運んでいる。
ここへ来たばかりの頃、塩結びを握って出したら、「本を読みながらでも食べやすい」と黄怜が喜んだ。
無能な自分でも役に立てたことが嬉しくて、それ以来毎日、陽葉は黄怜のためにおにぎりを作っている。
「ちょっと、東の邸宅で白米をいただいてきます」
書斎の黄怜に声をかけるが、いつものように返事はない。本を読んでいるときの黄怜には、周囲の音が届かないのだ。
お櫃を持って西の邸宅を出たその瞬間、
「陽葉っ……!」
待ち構えていた紅牙にぎゅっと抱きつかれた。
「こ、紅牙さん……?」
「どこ行くんだ? あ、もしかして、俺のところに来ようとしてた?」
にこにこ笑顔で問われて、「いえ」と答える陽葉の顔がひきつる。
霊受の儀のあと、紅牙は黄怜のところで世話になっている陽葉のもとに頻繁に会いにきていた。
花や貢ぎ物を持ってきては、南の邸宅に来いと誘われるのだが、陽葉はいつも笑顔でごまかしている。
聞くところによると、紅牙の南の邸宅や蒼樹の東の邸宅には、龍神島に残った歴代の花嫁が何人もいて、二人からの寵愛を受けるために争っているらしい。
だが、白玖斗と黄怜は霊受の儀を終えた花嫁を受け入れない。白玖斗は天音以外に興味がなく、黄怜は人嫌いだからだそうだ。
他の花嫁たちとの争いがない黄怜の邸宅は、陽葉にはとても暮らしやすい。
喜一と和乃に裏切られたこともあり、しばらくは色恋沙汰に巻き込まれるのはごめんだった。
陽葉が間借りすることになった小さな客間も、もとは大量の本が積まれていたが、さすがに布団を敷く場所がないので、それは全て書斎と奥座敷に持ち込まれた。
一日中あまり陽のあたらない西の邸宅で、黄怜は朝も昼も夜も、飽きることなく本を読んでいる。
読み終えた本は棚に仕舞われることなく床に散らかり、あっという間に足の踏み場がなくなる。
それで、陽葉は散らかる部屋の片付けをするようになった。
他の邸宅には身の回りのことを手伝う者がいるそうだが、黄怜のところにはそれがいない。
敷地内に誰かいるのが煩わしいそうで、食事だけ、必要なときに蒼樹のところで分けてもらっている。彼のところには、料理が得意な元花嫁がいるのだそうだ。
書斎いっぱいに散らばっていた書物を全て棚に片付け終えると、陽葉はしばらく手持ち無沙汰になった。
(そろそろ東の邸宅に、白米を分けてもらいにいってこようか……)
部屋の片付け以外に、陽葉は黄怜のために食事も運んでいる。
ここへ来たばかりの頃、塩結びを握って出したら、「本を読みながらでも食べやすい」と黄怜が喜んだ。
無能な自分でも役に立てたことが嬉しくて、それ以来毎日、陽葉は黄怜のためにおにぎりを作っている。
「ちょっと、東の邸宅で白米をいただいてきます」
書斎の黄怜に声をかけるが、いつものように返事はない。本を読んでいるときの黄怜には、周囲の音が届かないのだ。
お櫃を持って西の邸宅を出たその瞬間、
「陽葉っ……!」
待ち構えていた紅牙にぎゅっと抱きつかれた。
「こ、紅牙さん……?」
「どこ行くんだ? あ、もしかして、俺のところに来ようとしてた?」
にこにこ笑顔で問われて、「いえ」と答える陽葉の顔がひきつる。
霊受の儀のあと、紅牙は黄怜のところで世話になっている陽葉のもとに頻繁に会いにきていた。
花や貢ぎ物を持ってきては、南の邸宅に来いと誘われるのだが、陽葉はいつも笑顔でごまかしている。
聞くところによると、紅牙の南の邸宅や蒼樹の東の邸宅には、龍神島に残った歴代の花嫁が何人もいて、二人からの寵愛を受けるために争っているらしい。
だが、白玖斗と黄怜は霊受の儀を終えた花嫁を受け入れない。白玖斗は天音以外に興味がなく、黄怜は人嫌いだからだそうだ。
他の花嫁たちとの争いがない黄怜の邸宅は、陽葉にはとても暮らしやすい。
喜一と和乃に裏切られたこともあり、しばらくは色恋沙汰に巻き込まれるのはごめんだった。