牙優峰白
 黒板に書かれた躍動感溢れる文字に、級友たちが唖然としている。なぜなら、彼は白墨(チョーク)で左から右側へ流れるように文字を綴っていったからだ。

「きばやさ、みねしろ?」
「しらみね、ゆうが、だ」

 胸を張って自己紹介するのは、バスのなかで馬が走っていると信じていた少年――白峰優牙である。本日付けで学校の生徒となったのだが、残念なことに現代の常識に疎かった。

「地上から姿を消しておよそ千年、不本意だがうさぎを探しに戻ってきた山の狼神だ。よろしく頼む」

 上出来な自己紹介だ、と満足げに頷く優牙を見て、何かが違うと救いを求めるように十二人の生徒が教師の方へ顔を向けると、高等部一年担当の秋津もまた、苦笑を浮かべながら事情を説明する。

「白峰君は蒼谷旧家の出身で、長い間おうちで療養していたからわからないことがたくさんあるの。彼のことは三上くんがフォローするけど、みなさんも学校のことを教えてあげてくださいね」

 十一人の生徒の視線が三上と呼ばれた少年に向けられたのを見て、優牙はニヤリと笑う。

「なんだシロ、そこにいたのか」
「……お前、なにもわかっちゃいないな」

 シロと呼ばれた少年、三上白狼(しろう)は、やれやれと溜め息をつく。