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 ――生まれ変わりって信じる?

 あのとき瞳に訊いたのは、彼女がうさぎの魂を持つ女性だからだというだけではなかった。自分自身への問いかけも含まれていたのだ。シロウ。その身に神を宿す白き狼の御遣い。けれど成長するごとに覚醒をはじめた別の神力を制御できずに悩んでいた。
 そんなとき、臨時職員として図書館に来ていた女子大生に声をかけたのだ。
 それが瞳。かつて理不尽な運命に巻き込まれながらも、愛する男性とともに海に消えた鳥居卯月の転生者。
 彼女は自ら蒼谷に留まったと言っているが、旧家の人間が彼女を外へ出さないよう包囲していただけだ。そして、男を知らぬよう、全寮制の女子大へ推薦し、就職先を母校の図書館へ斡旋した。
 瞳にすべてをぶちまけたかった。あなたはうさぎの生まれ変わりとして、近い将来生贄にされてしまう。緋の鳥居家の血を引き、生まれながらに至高神の守護を与えられたうさぎだから。
 けれど彼女と図書館で過ごす逢瀬が楽しくて、恋しくて。そこまで踏み込んだ話をすることができないでいた。嫌われるのが、怖かった。だが、その時は呆気なく訪れた。
 冬将軍がなかなか退かなかったことで、蒼谷全体が沈みこみ、飢えた厄神憑の狼が暴れ出したのだ。
 そのようなこともあり、白狼が高校生になり、瞳が図書館で正式に雇われることになった春。旧家はついにうさぎを狩る準備をはじめた。
 桜の花幡(ソコンニイナウ)が遺した蒼き谷の守護桜がすべて散った後、殺して、その骸を白峰の社へ遺棄……山の狼神へ捧げるのだと。

 ――そんなことが、許されてなるものか!

 彼女を護りたい。
 厄神からも、人間からも。
 そう稀ったあの日。神域である白峰神社の方から、ひとの声がした。雪がまだとけずに残る山奥で、自分よりもつよい神のちからを抱く、蒼き毛皮を纏った少年が、目の前で手を差し伸べる。

同朋(とも)よ、桜はまだ咲いておるか?」

 それが自らを『優しい牙』と名乗る白狼大神、白峰優牙と三上白狼の出逢いだった。