その流れを黙って観察していた黒狼は瞳が美しい女性になって蒼き谷へ戻ってきたのを見て、卯月を思い出していた。運命を知り、旧家を欺き黒狼とともに命を散らした少女。すでに瞳は卯月が死んだときの年齢を越えている。けれど彼女は自分が生贄となることを知らされないまま、ここまできてしまった。
そしてもっとも恐れていた出来事が、白狼大神の覚醒だ。彼は旧家に対してうさぎを求めた。そして三上が、深森が動く。
桜が散ったら彼女は山の供物になる……?
瞳を見殺しにしたら怒るだろうか。卯月のことだから祟りに来るだろう。だから黒狼は動くことにした。同じ魂を持つ無垢なうさぎを護るため。
「秘珠はもうないんだぞ? どうやって彼女を救えっていうんだ?」
毒づきながらも黒狼は駈ける。緑の深森は単独でうさぎを狩るつもりだ。千年前にうさぎを殺したのも深森の人間だった。あのとき白狼大神は愛する少女を殺され、永い眠りについたのだ。
けれど今回、白狼大神はうさぎを求めながら、自分のものにしていない……黒狼は思い出す。彼女の手の甲についていた刻印。傍にいた白狼大神の御遣いがつけたものだと思ったが、そう考えることが実は誤りだった?
――こうしてみると、シローくんにも似ているわね。
シロウ? その名前にひっかかりを覚え、いままで避けていた旧家に足を延ばす。
そして黒狼は痛感する。迸るしろがねの神力に迎えられ、目を見開く。
「ようやく俺の前に現れたな、黒狼忌神?」
まるではじめから自分の元へ来るのをわかっていたかのように、紫水晶と琥珀の瞳が、黒狼を出迎える。
「紫狼、地神」
海に引きこもりがちだった黒狼忌神の同朋。そして、原始のうさぎを妻に娶り人間として生きた神が、そこにいた。
そしてもっとも恐れていた出来事が、白狼大神の覚醒だ。彼は旧家に対してうさぎを求めた。そして三上が、深森が動く。
桜が散ったら彼女は山の供物になる……?
瞳を見殺しにしたら怒るだろうか。卯月のことだから祟りに来るだろう。だから黒狼は動くことにした。同じ魂を持つ無垢なうさぎを護るため。
「秘珠はもうないんだぞ? どうやって彼女を救えっていうんだ?」
毒づきながらも黒狼は駈ける。緑の深森は単独でうさぎを狩るつもりだ。千年前にうさぎを殺したのも深森の人間だった。あのとき白狼大神は愛する少女を殺され、永い眠りについたのだ。
けれど今回、白狼大神はうさぎを求めながら、自分のものにしていない……黒狼は思い出す。彼女の手の甲についていた刻印。傍にいた白狼大神の御遣いがつけたものだと思ったが、そう考えることが実は誤りだった?
――こうしてみると、シローくんにも似ているわね。
シロウ? その名前にひっかかりを覚え、いままで避けていた旧家に足を延ばす。
そして黒狼は痛感する。迸るしろがねの神力に迎えられ、目を見開く。
「ようやく俺の前に現れたな、黒狼忌神?」
まるではじめから自分の元へ来るのをわかっていたかのように、紫水晶と琥珀の瞳が、黒狼を出迎える。
「紫狼、地神」
海に引きこもりがちだった黒狼忌神の同朋。そして、原始のうさぎを妻に娶り人間として生きた神が、そこにいた。