千年以上もつきあいのある友人だぜ?
 張り詰めていた空気がすぅっとほどけた。白狼は何事もなかったかのようにむくりと起きあがり、優牙に微笑みかける。
 その虹彩は左右で異なり、右目だけが紫水晶を彷彿させるすみれ色に変貌していた。左目に変化はないが、こうして並ぶと琥珀のように見える。そのうえ、明るい栗色の髪は朝陽を浴びて黄金色に輝いている。
 その姿は忘れ去られた本来の土地神、紫狼地神のようで――白狼の変化に誰もが驚き、何も言えなくなる。

「親父、身に封じた神を打ち負かすのは間違ってる。俺はこいつとうまくやっていく」

 爽やかに言い切る白狼を見て、優牙は苦笑する。
 自分に従う白き狼だから、白狼という名なのだとずっと思っていた。けれど箱を開けてみたら、同音読みの中に古くからの親友が隠れていた。カイムの人間が持つ真名だ。瞳といい白狼といい、神々に翻弄された人間はひとくせもふたくせもあるものが多いらしい。

「シロ、お前……()()だったのか」

 紫狼地神が人間でいることを選び、番いに選んだ少女。美しい緋色の瞳を持っていたため、のちに原始のうさぎと呼ばれた神嫁もまた、当時の鳥居家の長女だった。
 そのとき紫狼の隣で微笑んでいた彼女の名が、緋兎美だった……だからあんなにも焦がれていたのだなと、優牙は納得する。

「隠してたわけじゃない。言わなくてもわかってると思ったんだ。まぁ、こんな風に覚醒できたのは初めてだけどな」

 そして父親に向けて言い放つ。

「俺がいる限り、彼女は殺させない」

 白狼に降りてきた紫狼の言葉に、一狼は瞠目するもつまらなそうに背を向ける。

水の身神(イノンノイタックル)の領域でのウサギ狩りは禁止させてやる。せいぜい運命に抗うことだな」

 父親の背中は、どこか淋しげに見えた。