「ねぇ、なんでまだいるのよ」
「つれねーなぁ、今日は学校休みなんだろ?」
「授業はないけど、図書館は今日も開いているのよ。あなたみたいな不審者、連れて勤務するわけにはいかないわ」

 学校は旧家の人間がたくさん集うからイヤだとさんざん口にしていたのに、瞳が今日も図書館に行くと言うのを聞いた途端、オレも行くと騒ぎだしたのだ。まるで幼い子どもだ。

「学校休みならあいつらいないだろうし、姿は幽霊みたいに消しておくから! それに昨日、いろいろ教えてやっただろ?」

 ……姿が消せるならこっそりついてくればいいのに、変なところで律儀だなと瞳は苦笑する。

「仕方ないわね」

 昨日の話を取り上げられると瞳はぐうの音もでない。彼が教えてくれなければ三十年前に何があったのかも、緋の鳥居家の長女だけが知るという秘密のことも、死の間際の祖父が何を言いたかったのかもわからずじまいだったのだから。

「よっしゃ! 愛してるよセンセ」
「……ほんとに大丈夫かしら」

 はぁ、と溜め息をつき、瞳は支度をはじめる。初めて見た時は優牙に似てると思ったけれど……

「こうしてみると、シローくんにも似ているわね。やっぱり三柱の狼神が関係するのかしら?」

 ひとりごちる声に応えはない。すでに気配だけを残して姿を消した青年を確認し、瞳はそっと、自室の扉を開く。