バスの後部座席で瞳は囲まれている。
 右側には明るい栗色の髪の人なつっこい少年、三上白狼。
 左側には闇夜に溶けそうな蒼みがかった髪の謎めいた転入生、白峰優牙。
 放課後すぐに図書館でたくさんの本を借りて姿を消したふたりが、なぜいまふたたび瞳の前に現れ、一緒に帰ることになっているのだろう。

「瞳先生のお宅はたしか、紫蘇洗(しそあらい)ですよね。じゃあ二十分くらい一緒だ。うち終点三の谷だから」
「……そういえばシローくんのおうちは蒼谷岳の中腹なのよね」

 三上邸のある三の谷は麓の駅よりもさらに高い、山深い場所に位置している。よくよく考えると、かなり早起きして学校まで通っているのではないだろうか。
 瞳が唖然としているのを見て、白狼は愛らしく笑って返す。

「生まれた頃からこんな生活だから、慣れていますよ。夜は早いけど」
「健康的なのね」

 もっとストイックなのかと思った、という瞳の声を無視して、白狼は切り返す。

「そういう先生は寝不足ですね?」

 さらりと言われ、瞳は苦笑する。

「そ、そう見える?」

 昨晩の不可思議な出来事を思いだし、優牙の顔色をうかがうと、白狼と瞳のたわいもないやりとりに飽きたのか、彼はいきなり核心を突いてくる。

「ああ、まるで人ならざるものと前世にまつわる話をしたのではないかと疑いたくなる」
「!」

 あからさまに動揺する瞳を見て、優牙はやはりとひとり頷くが、白狼は苦虫を殺したような表情をしている。

「悪いが我はシロのように言葉巧みにお前を操れない。ならば懐に潜り込んだ方が早い」

 鋭い刃のような言葉に、白狼が恨めしそうに優牙を睨みつける。彼女がうさぎであると、張り巡らされた結界の存在で確信した優牙に昨日のような迷いは見られない。

「さっきの夕陽のなか、そなたを守護する結界を見た。あれを見て確信した」
緋の鳥居(トゥペンニ)の兎姫」

 黙り込んでいた瞳が感情を込めずに呟けば、優牙がそうだ、と嬉しそうに頬を緩める。けれどそんな優牙とは裏腹に、白狼の顔色は冴えない。
 左右で対照的な反応を見せる少年たちを見比べ、瞳は表情を変えずに言葉をつづける。

「シローくんは知っているわよね、わたしの祖父が、緋の鳥居家最後の当主だ、って。各務原へ嫁入りした母は次女だったから旧家のしきたりを厳しく教わらなかったというけれど、家を継ぐはずだった伯母さまが……」