* * *
午後五時で図書館は閉館を迎える。
大量の本を持って優牙と白狼はバス停からほど近い、校門脇で花を咲かせる桜の木の下で待っている。仕事帰りの瞳を。
桜花が夕陽に照らされ緋色に燃える様を横目に、白狼は口を開く。
「彼女と何を話していたんだ?」
「たいしたことではない」
「じゃあなぜあんなカオをさせた?」
いまにも泣きそうな瞳の表情。たしかに自分が何も知らない状態で実は神々と浅からぬ因縁があると知らされればそうなるかもしれない。けれど昨日までは気丈に振る舞っていた彼女が一日で態度を変えるだろうか。
悶々としている白狼を前に、優牙は淡々と本音を告げる。
「それを確かめたいから、彼女を待っている。既に別の何かが彼女に接触している可能性を、知りたい」
「まさか、至高神?」
白狼はおそるおそる、国造りの神の一柱である最強の女神の名をあげるが、優牙はあっさり一蹴する。
「彼女だけに接触したとなると、もっと小物だ。ここを我が領域と知って隠れておるのか、それとも」
優牙はそこで言葉を濁し、ふっと空を見上げる。血のように赤く染まる太陽のひかりが水色の空を包み込むように混ざり、緋色にとける。
自然の理を目の当たりにした優牙はほう、と息をつき淋しそうに白狼に向き直る。
「なぜだろうな。あの美しくも儚いあかい色彩を見ると、胸が苦しくなる」
夕焼けを背にしてひとりこちらへ歩いているちいさな影が見えた。夕暮れ時のいまだからわかった、これが、彼女を守護するように幾重にも張り巡らされた『紅緋』の結界。
神にしか見えない世界を知らぬ間にまとっている瞳の姿を見て確信する優牙を、白狼は唇を噛みしめて、凝視する。
午後五時で図書館は閉館を迎える。
大量の本を持って優牙と白狼はバス停からほど近い、校門脇で花を咲かせる桜の木の下で待っている。仕事帰りの瞳を。
桜花が夕陽に照らされ緋色に燃える様を横目に、白狼は口を開く。
「彼女と何を話していたんだ?」
「たいしたことではない」
「じゃあなぜあんなカオをさせた?」
いまにも泣きそうな瞳の表情。たしかに自分が何も知らない状態で実は神々と浅からぬ因縁があると知らされればそうなるかもしれない。けれど昨日までは気丈に振る舞っていた彼女が一日で態度を変えるだろうか。
悶々としている白狼を前に、優牙は淡々と本音を告げる。
「それを確かめたいから、彼女を待っている。既に別の何かが彼女に接触している可能性を、知りたい」
「まさか、至高神?」
白狼はおそるおそる、国造りの神の一柱である最強の女神の名をあげるが、優牙はあっさり一蹴する。
「彼女だけに接触したとなると、もっと小物だ。ここを我が領域と知って隠れておるのか、それとも」
優牙はそこで言葉を濁し、ふっと空を見上げる。血のように赤く染まる太陽のひかりが水色の空を包み込むように混ざり、緋色にとける。
自然の理を目の当たりにした優牙はほう、と息をつき淋しそうに白狼に向き直る。
「なぜだろうな。あの美しくも儚いあかい色彩を見ると、胸が苦しくなる」
夕焼けを背にしてひとりこちらへ歩いているちいさな影が見えた。夕暮れ時のいまだからわかった、これが、彼女を守護するように幾重にも張り巡らされた『紅緋』の結界。
神にしか見えない世界を知らぬ間にまとっている瞳の姿を見て確信する優牙を、白狼は唇を噛みしめて、凝視する。