「それは興味深いな」
シロが目をつけたとおりだ。そうひとごちる優牙を見て、瞳は慌てる。
「それってどういうこと? まぁ、彼も蒼谷旧家の一員だからわたしより狼神信仰とか伝承とか詳しいと思うけど」
なんせ身に神を宿すミカミの一族、しかも神の称号である『白狼』とつけられ、名乗ることを許された特別な存在である。分家筋の人間でも彼の名を聞けば、彼が後継者なのだといやがおうでもわかってしまう。
瞳の蒼谷に対する知識は旧家にあるものと比べればあまりにも脆弱だ。だというのに白狼は民俗学を修めた瞳に目をつけたというのか。それとも。
「わたしがうさぎに関係しているから?」
昨晩の銀髪碧眼の青年が言い放った緋色の美しい兎、という言葉が脳裏に浮かび、怯えがはしる。祖父が自分を「兎」と名付けようとしたことも、きっと蒼谷の土地神を巡る因縁なのだろう。
「どっちにしろ、うさぎは狩られるだけの存在だものね」
諦めにも似た瞳の表情を見て、優牙もまた呆気にとられてしまう。年上だと言いながら、無防備な榛色の潤んだ眼が、縋るように優牙をのぞき込んでいた。
「……狩られるだけの存在か。そのようなこと、考えたこともなかった。そうは思わないか? シロ」
瞳が「え」と顔を向けると、無表情の白狼がふたりの横に立っている。優牙と瞳がこそこそ話をしているのが気に食わないのか、視線が冷たい。彼の読めない感情を遮るように瞳は慌てて白狼に声をかける。
「ちょっとシローくん。本の貸し出し上限は十冊までってちゃんと教えてよ!」
「あ、ごめーん先生。まさかこんなに一気に借りようとするとは思わなかったよ」
瞳の声が届いたからか、白狼は人懐っこい笑顔を浮かべて優牙から数冊本を受け取る。
「じゃあ、こっちは俺の名前で手続きすれば問題ないだろ。まったく、辞典や歴史書はわかるにしても、なんで料理の本や小説まで入ってるんだ?」
ぶつくさ文句を言いながらも何事もなかったかのように学ランの胸ポケットから取り出した学生証を瞳の左手に押しつけるのだった。
シロが目をつけたとおりだ。そうひとごちる優牙を見て、瞳は慌てる。
「それってどういうこと? まぁ、彼も蒼谷旧家の一員だからわたしより狼神信仰とか伝承とか詳しいと思うけど」
なんせ身に神を宿すミカミの一族、しかも神の称号である『白狼』とつけられ、名乗ることを許された特別な存在である。分家筋の人間でも彼の名を聞けば、彼が後継者なのだといやがおうでもわかってしまう。
瞳の蒼谷に対する知識は旧家にあるものと比べればあまりにも脆弱だ。だというのに白狼は民俗学を修めた瞳に目をつけたというのか。それとも。
「わたしがうさぎに関係しているから?」
昨晩の銀髪碧眼の青年が言い放った緋色の美しい兎、という言葉が脳裏に浮かび、怯えがはしる。祖父が自分を「兎」と名付けようとしたことも、きっと蒼谷の土地神を巡る因縁なのだろう。
「どっちにしろ、うさぎは狩られるだけの存在だものね」
諦めにも似た瞳の表情を見て、優牙もまた呆気にとられてしまう。年上だと言いながら、無防備な榛色の潤んだ眼が、縋るように優牙をのぞき込んでいた。
「……狩られるだけの存在か。そのようなこと、考えたこともなかった。そうは思わないか? シロ」
瞳が「え」と顔を向けると、無表情の白狼がふたりの横に立っている。優牙と瞳がこそこそ話をしているのが気に食わないのか、視線が冷たい。彼の読めない感情を遮るように瞳は慌てて白狼に声をかける。
「ちょっとシローくん。本の貸し出し上限は十冊までってちゃんと教えてよ!」
「あ、ごめーん先生。まさかこんなに一気に借りようとするとは思わなかったよ」
瞳の声が届いたからか、白狼は人懐っこい笑顔を浮かべて優牙から数冊本を受け取る。
「じゃあ、こっちは俺の名前で手続きすれば問題ないだろ。まったく、辞典や歴史書はわかるにしても、なんで料理の本や小説まで入ってるんだ?」
ぶつくさ文句を言いながらも何事もなかったかのように学ランの胸ポケットから取り出した学生証を瞳の左手に押しつけるのだった。