「貸し出し上限は十冊までです。これ以上はできません」
「なぬ、そうだったのか。シロの奴、読みたい本を持っていけばよいと言っておったが」
その声にハッとして顔をあげれば、昨日失礼なことを言い放って瞳に図書館から追い出された神様を名乗る少年、優牙だった。
瞳は作業に夢中でずっと下を向いていたし、カウンターの上に本が積み上げられていたこともあり、顔が見えなかったのだ。
ざっと十五、六冊あるだろうか。よくよく見れば分厚い国語辞典から歴史書、植物図鑑に経済白書、なぜか手芸や料理の本に至るまでなんとも無造作なセレクトだ。
「ずいぶん勉強熱心なのね」
「いままでなにもせず惰眠を貪っていただけだ。そのぶんを取り戻さねば」
まるで不良少年が受験を機に勉学に勤しみ出すような感じだが、彼の場合は本質的に異なっている。瞳は小声で彼に訊ねる。
「惰眠ってどのくらい?」
「シロがいうには八百年から千年くらいが妥当だろうと。面倒だから千年ってことにしておる」
面倒と一蹴する彼を前に、瞳は呆れた表情で言葉を返す。
「……要するに具体的な数字は何一つわからないのね」
「ほう、ヒトミは我が言うことを信頼に値すると?」
信頼に値するか否かといわれると、判断材料が乏しい現状では首を縦に振ることは難しい。けれど彼の話がすべて妄言かというと、昨晩の非現実的な出来事を思うと瞳は自信を持って断じることができない。
「話を聞いてみないとわからないもの」
自分が人ならざるものから求められている『うさぎ』かなんて。
その声ならざる声をまるで耳にしたかのように、優牙はくすりと微笑を見せる。