(ひとみ)先生は、生まれ変わりって信じる?」
「――え?」

 学校図書館で本棚の整理をしていた際に突然空から降ってきたなんとも非現実的な言葉。
 一度も染めたことのない黒髪を無造作に結い上げ、黒レースのシュシュで飾った頭がぴくりと動く。声がした方向へ顔をあげたのは、見た目が二十歳前後の小柄な瞳と呼ばれた女性だ。
 灰色のスーツを戦闘服のように着ている瞳は長身の男子生徒に高い場所にある本の並べ替えを手伝ってもらい、その作業を黙って見守っているところだった。

「え、と……生まれ変わりって、転生ってことよね。輪廻、転生」

 脚立を使わず器用に本を入れ替えていく生徒は呆気にとられたような彼女の声を背後に、嬉しそうに応える。

「そうです。この世界で生を終え冥界へ旅立ったモノが、再びこの世へ無垢な状態で還ってくること」
「どうしたの急に。何かヘンなものでも食べた?」
「そうかも」

 くすりと笑い、少年はなおもつづける。

「運命の(ヒト)。今風に言うとファムファタル?」
「……あのね。ファムファタルには運命の女性って意味だけじゃなくて男性を破滅させる女性って意味もあるのよ。あと、年上の女性をむやみやたらに口説かない、っていつも言っているでしょう?」
「安心して、俺が口説くのは先生だけですから」
「いやそれぜんぜん安心できません、高校生ならもっと若くて青春まっただ中の女の子と健全な恋愛をすべきでしょう! それに……」

 彼女があたふた狼狽する姿は愛らしい。少年はそんな初な反応をするから思わず抱きしめたくなるのだと言おうとして、やめる。

「わかってますって。先生の恋人は俺一人じゃ太刀打ちできない、古くからの伝承だって」

 彼はいつものように人なつっこい笑みを浮かべ、瞳から背を向ける……彼女の頬が熟れたての林檎のように真っ赤に染まっているのをこっそり確認してから。