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 数日後、美季宛の荷物が自宅に届いた。
 楽しみにしていたアンジュの絵だ。
 開封すると、額縁の裏にハーブの入浴剤とメッセージカードが貼りつけてあった。
 カードには手書きのイラストの横に二次元バーコードが印刷されていて、スマホで読み込むと動画が表示された。
 日付とサインを書いている様子、梱包している場面、アンジュからのお礼のメッセージ、そして、未森からの挨拶だ。
 ほんの数日前のことなのに、ひどく懐かしい記憶を掘り起こされたような感覚にとらわれて、なんだかいても立ってもいられない衝動に駆られた美季は部屋に飾ったアンジュのイラストを前に涙を流していた。
 それまで、自室とはいえ、家で自分の感情をこんなふうに外に出したことがなかった。
 いい子でいろと言われ続けて自分の気持ちをつねに押し殺して生きてきた。
 自分にだってしたいことがある。
 べつにそれを隠す必要なんてない。
 少しずつでいい、一つずつでいい。
 今からだって全然遅くなんかない。
 またあの場所に戻れるように、自分を変えていかなくちゃ。
 頬を涙で濡らした美季は柔道家のように両手の拳を握りしめ、ヨシと気合いを入れた。
 ――私は私。
 お一人様ですけど何か?