「そういえばどうしてここを通られていたの?
近くにお住まいだったのかしら」
「まさか!
実は新しい部屋を探していてこの先まで物件を見に来てたんです。
住んでいるのは下北沢駅にほど近いのですが、なかなか予算と条件が合わなくて」
「こんな時期に引っ越しなのはどうして?
お急ぎなの?」
「今住んでいるところが急遽取り壊しになって三ヶ月以内に立ち退きを通告されまして。
仕事の合間に探していたので、もう残り二ヶ月ほどになったのですが」
「それは大変。
では新しい場所が見つかるまでうちに住むのはいかが?」

陽子は和代の急な提案に目を丸くする。

「ここには私一人しか住んでいないから大丈夫よ」
「ありがたいお話ですが、会ったばかりの何も知らない他人にそういうお話はよろしくないのではと」

困惑というよりも和代のことをまず心配した陽子に、和代は陽子の人柄の良さを垣間見て目を細める。

「同居に誘うのだもの、まずは私のことを話さなきゃ駄目よね」

和代が座り直したので、陽子はフォークとナイフを置いた。

「この家は元々は夫の両親の家だったの。
義両親は早くに亡くなって夫と二人で過ごしていたけれど、夫も十年ほど前に他界して。
子供もお互いに兄弟もいないから私一人でこの広い家を守ってきてね。
家の中は週に一度業者の方が清掃してくれて、庭は松などもあるからこちらも業者さんにお願いしてるのよ」

和代は思い出のある庭を見てから、家の方に視線を向けた。