入り口は洋館の扉だが軒先は瓦屋根。
中に入れば広い玄関ホールで吹き抜けなのでより広く感じる。
玄関を上がった先にはもう一つ大きなガラスのドアがあり、周囲の建具は木だが長年により美しく変わった飴色だ。
横には同じ飴色の手すりがある階段には、赤い絨毯が敷いてある。
陽子が和代の手を引き廊下を歩けば、広い和室があるのにその向こうに見える窓は洋館の窓。
和と洋が違和感なく同居しているこの洋館に、陽子はついキョロキョロとしてしまった。
「面白い家でしょう?」
和代に頼まれて言われたとおりダイニングの椅子に座らせると、笑みを浮かべて陽子に聞いてきた。
「はい。とても歴史ある建物だとはわかるのですが、洋館の中に和室があったり、外は半分和風旅館のような佇まいで凄いなと」
「昭和初期の建物なんだけれどね、奇跡的に戦争も乗り切って。
水回りとか何度かは変えたのよ?
今のお洒落なキッチンとかではないものの、このレトロさが好きなの」
確かに見えるキッチンは一昔前の昭和な台所。
グリーンのタイルと当時流行った可愛い花柄のタイルが交互に貼られ良い味を醸し出している。
「ところで」
椅子に座ったままの女性が、その近くに立っていたままの陽子に声をかけた。
「私は峰山和代と言います。年齢は聞かないでね。
お嬢さんのお名前を伺っても?」
「失礼しました。
私の名前は三田陽子です。年齢は、その、五十代まであと数年です」
「まぁ、まだまだお若いわ。
突然だけれどお時間があれば、食事を一緒にいかが?
助けていただいたお礼をさせていただけないかしら」
既に和代は足を引きずることも無くしっかりと立っている。
どうやら陽子に断れないように策を弄されたことに気づいた。
いたずらっ子のような笑顔を向けられ、陽子は苦笑いしながらご相伴にあずかりますと頭を下げた。