和代が陽子を大切にしてくれていることを陽子は痛いほどに理解している。
それによりどんなに幸せかを、陽子自身が口にしなければ幸せにはならないのだ。
陽子は和代の前に立ち、しっかりと和代の目を見た。
「是非、これからも魔女さんのお宅にご厄介させて下さい」
「こんな可愛い魔女見習いが住んでくれて、この洋館も、そして私も嬉しいわ」
和代は心から嬉しそうにそう言うと、陽子は思わず涙ぐんだ。
「あらあら。
ランチは軽くサンドイッチにしようかと思っているけどいかが?
美味しい紅茶もつくけど泣き止んでくれるかしら」
「泣き止まないとデザートとかついたりしますか?」
陽子の言葉に和代がふふふと笑う。
陽子自身もこの歳でこんな風に子供のように言えてしまう自分に内心驚いていた。
ずっと大人でいなければならないと思っていたけれど、五十近くなっても精神年齢などたかがしれている。
自分もすっかり魔女さんの魔法にかかってしまった。
それが陽子にとってはどれだけ幸せに思えることだろうか。
「実はクッキー生地の残りで作ったタルトがあるのよ、あとは飾り付けだけなのだけど」
「目一杯お手伝いさせていただきます」
陽子が引き締めた表情で返し、二人顔を見合わせて笑う。
陽子はここに住んで、随分と自分が笑うようになったと思った。
和代も同居を勧めた相手が陽子であったことに、不思議と夫に感謝したい気持ちになる。
この素敵な巡り合わせを夫がしてくれたような気がしたからだ。
あの時音を立てて落としてしまったブリキのじょうろ。
それは和代の夫が買って愛用していた物だった。
「今夜はお酒持った悪い子達がくるけどよろしくね」
「お友達やこの洋館の元住民の方達ですよね、了解です!」
「まだハロウィーンは終わっていないけれど、次はクリスマスのイベントが待ってるわ」
「クリスマスですか、もうそんな話題が出ると一年が年々早いと感じます」
「そうね。
だからこそ、楽しいことを自ら作らなきゃ」
楽しげなに話ながら、二人はキッチンへと向かう。
料理の上手な魔女さんの住む洋館。
そこでの日々は、まだ始まったばかり。