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「とりっくおあとりーと!
おかしをくれなきゃいたずらするぞ!」

洋館の玄関ホールに、たどたどしい声からはっきりとした声まで、子供達の声が響く。

陽子はまず子供や親達を招くためにドアを開けたのだが、すぐさま玄関に隠して置いたスマホから雰囲気が出るような音楽を流す。
夜であればもっと雰囲気も出ただろうにと悔しい気持ちになった。
陽子は黒のワンピースを着ていて、顔はわざと血色が悪いようにメイクアップした。

洋館に仕えるメイドのように子供を恭しく迎えた陽子に子供達は一瞬驚いた顔をしたものの、すぐにキラキラとした瞳に変わる。
来ているのは父親に抱きかかえられた二歳児くらいの子から、小学校高学年くらいまでの約十人。
親もいるのでそれなりの人数だが、この洋館の玄関ホールには全員が入れてしまった。

音楽に合わせ、奥から籠を持った和代が現れ、子供達から歓声が上がる。
和代は陽子によるプロデュースで、長い黒髪のウィッグを被り、大きなつばひろの帽子、黒のロングワンピースという出で立ちで現れた。

「魔女だ!」

子供達数人が指を指して言い、親が指を指してはいけませんと注意しているが子供達は興奮状態だ。
そんな微笑ましい姿に和代は目を細めた。

「良い子ならば、この魔女がお菓子をあげましょう」

そう言った和代に、子供達が元気よく良い子でーす!と返事をした。
陽子はキッチンから残りのクッキーと、特別なクッキーの入った籠を持ってきて和代に手渡した。
花のバッジをした子もクッキーをもらい、みな満面の笑みを浮かべて騒いでいる。

「他の子達にもあげましょう」

和代が他の子達を意味する親達にも渡すと親達も嬉しそうに受け取り、全員で元気よくお礼を言って頭を下げると出て行った。

陽子は全員を外まで見送って門を閉める。
子供達は大きな袋に詰めたお菓子を眺めながら皆満足そうだ。