「どっかランチやってるところ見つけなきゃ」

この頃はランチの値段もどこも値上がりしている。
ランチが大抵始まる十一時半前にお店へつけば並ばずに入れるだろうかと考えながら歩いていると、ガラン、という大きな音に驚き音がした方を向いた。

すぐ横には驚くほどに立派な建物。
洋館のようだがその正面半分は老舗旅館のような佇まいだった。
生け垣の隙間から覗けば、その庭で女性が膝を地面につけて座り込んでいて横には鈍色のブリキで出来たじょうろが倒れている。
先ほどの音はこのじょうろが庭に置いてある椅子にぶつかった音のようだった。

陽子は近くにあった門を開けて失礼します!と言いながら走って入り、彼女の元へと急いだ。

「大丈夫ですか?!」

芝生に膝をつき座り込んでいた女性が、ゆるゆると顔を上げた。
年の頃は七十過ぎというところだろうか、年配という言葉は失礼で、良いところのマダムと呼ぶ方がふさわしい。
白髪のショートヘアはゆるくウェーブがかけられ、化粧も薄くしているが女優のような上品な顔立ちに陽子は思わず見とれてしまった。

「心配かけてごめんなさい、つまづいてしまって」
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫大丈夫、上手く地面に着地出来たみたい」

ふふっと笑いながら立ち上がろうとした女性に、陽子はすぐさま手を差し出してゆっくりと立ち上がらせる。
真っ直ぐ両足が地面に着いている様子に胸をなで下ろす。
どうやら骨折などはしていないようだ。