クッキー生地を、かぼちゃや幽霊の型で一枚ずつ丁寧に抜いていく。
オーブンは大きいがそれでも四回転しなければならない。
陽子はいつもこんな大変なことを一人でしているのかと驚いたが、和代は毎年楽しくて仕方が無い。
「いつもこの量を一人でされていたんですか?」
「これでも一時期より減ったのよ?
今回は陽子さんが手伝ってくれるから助かってるわ、ありがとう」
「いえ、単純なことしか出来なくて」
「充分よ。当日は子供達の幸せそうな顔を一緒に見ましょう」
年齢を感じさせないほどに和代は生き生きと動いている。
「和代さんって人への幸せが、自分の幸せって顔をされますね」
「陽子さんはそうではないの?」
「うーん。
自分が辛いときに人の幸せを見るのは辛いことも多いです。
本当は心からお祝いすべきなんでしょうけれど、形だけのお祝いだけで心では素直に祝えていないことなんて多々あります」
「それは自然だしごく当然なことだと思うわ。
でも陽子さんは自分が辛くてもきちんと人を祝えるのでしょう?
十分だし凄いことじゃない」
「そう、ですねぇ」
陽子は歯切れ悪く苦笑いを浮かべる。
使い終わった器具を洗いながら、自分の器の小ささが嫌になった。
暗い表情で片付けている陽子に、和代はそっと聞く。