和代に問われた陽子の眉間に段々と皺が寄る。
休みがあることを優先して選んだ先が今の会社であって、そこまでアパレル業界に興味があった訳では無かった。
それでも下北沢で自由な表現をする若者達を見て、羨ましく思っていたところはあっただろう。
「下北沢に住んでいたので、自然とアーティスティックな服装とか小物に目がいっていたのかもしれません。
部署は広報なんですよ、これでも。
ただ外部に出る担当はちゃんといて、私は裏方です。
やりがい、はありますね。
裏方だって面白いとは思うのですが、アパレルの会社に入ったら目立った仕事がしたいと思う子には裏方だと肩透かしだと思う部分もあるでしょうけれど」
「広報なの?!凄いわ!」
「いえいえ、所詮裏方ですから」
「あのね、怒られるかもしれないけれど、クリエーターって承認欲求が強いからこそ出来ることだと私は思うの」
「それは同感です」
デザイナーや広報ですら、自分のやり方や表現方法をなかなか曲げない。
そんな人達の間に入ることが多い陽子は、痛いほどにわかるので和代の指摘に強くうなずく。
「外に自分の何かを出したいというからこそ出来ることだけど、それは裏返せば自分を曲げることをなかなか出来ないことでしょうしそれがプロでもあるでしょう。
でも全員がステージに立ちたいとなったら、誰がそのステージを作るのかしら。
ステージに立つには、多くの人達の支えが必要だわ。
縁の下の力持ちという言葉があるけれど、そういう人に気づいて感謝できる人も残念ながら少ない。
その人達がいなければステージに立てないし、当然だけれどそもそもステージに立つ人がイベントは成り立たない。
お互いを尊敬し合えるって理想だけど難しいわよね」