和代は楽しげに微笑む。
陽子は和代と話すことがとても楽しみになっていた。
相手を否定せず、陽子からすると目から鱗が落ちるような話をしてくれる。

同居し始めて、和代はいつも一人では無い事を陽子は知った。
和代の夫の教え子や友人、付近の人などが時折家に来る。
そこで彼らは和代が一人で暮らしているのを心配して来ているように見えて、皆和代との会話を心待ちにしていた。
そして皆憑き物が落ちたような顔で帰って行く。
魔女さんに魔法をかけてもらったおかげ、そんなことを話す者もいる。

「若い子は若い子でそういう問題が起きるし、先月から産休に入った人が課にいるんですけど、その仕事は独身である私にのしかかるんです、いつも。
独身だから融通が利く、気楽だと思われるのはつらいですね」
「話を聞く限りでは会社はその人の穴埋めをする人を雇うことはないのね」
「雇いませんよ、期間限定でわざわざ新しい人なんて。
でも産休育休とってしばらくしてから辞めてしまう人もいるんですよね。
事情があるのはわかるんですが、辞めると先に言ってくれたならもっと早く会社が人を雇ってくれたはずなのにと思います」
「今は子供を預けることも厳しいものね。
預けられたとしてもしょっちゅう預けた先で呼び出されるのなら、正社員は無理と諦めることもあるのでしょう」
「わかってます、知識というか子育てされる方々の悩みも頭ではわかっているんですけどね。
だけどなんで私だけが、っていう思いに駆られるんです。
そしてそう思う自分が嫌になるので余計に辛いというか」
「そうよね。
その方達が大変だからといって、陽子さんがその分を背負って無理をさせられることの理由にはならないわ。
ねぇ、陽子さん。
そのお仕事にやりがいは感じてる?」