下北沢に住んでもうすぐ六年、そろそろ賃貸マンションの契約更新と言うときに言い渡されたのが取り壊しのための立ち退きだった。
猶予はまさかの三ヶ月。
嫌だという訳にもいかず、慌てて今住んでいるところに似た条件で探したいが見つからない。
今住んでいる場所を見つけた六年前よりも賃貸料は軒並み上がっている。
下北沢駅前周辺は諦め、少し足を伸ばしたエリアの物件を朝早くから二カ所見てみた。
だが予算を優先すれば物件に問題が、物件を優先すれば当然賃料は上がる。
休みの度に見てみて少しずつ条件を下げても五月という時期がより悪く、物件自体の数も少なかった。
仕事もストレスが溜まるばかり、つい最近はあまりにショックなことが起きて自分の将来や年齢を痛いほどに噛みしめた。
会社を変えてしまえば下北沢にこだわる必要も無い。
だが五十歳を間近にしての転職など、正社員で考えるならあまりに現実は厳しすぎる。
先日久しぶりに本を読んだら、気がつけば老眼というものになっていてショックを受けた。
どうも何もかもが上手くいかなくなっているように陽子は感じて、気落ちしていた。
陽子が駅に向けて歩いていると、そのエリアは高級住宅街と呼ばれるような場所だった。
立派な一戸建てに広い庭のある家が並ぶ。
だけれどそんな道路を誰も歩いてはいないし、ここの場所だけ異空間にすら思えた。
突然響いたのは腹が盛大に鳴る音。
閑静な住宅街で自分のお腹の鳴る音が響いたことに驚き周囲を見渡す。
運良く誰もいないことに陽子はホッとした。