それから十数年、春先に庭で出会った女性は、親子ほど離れていた。
不思議と運命ではと思えた。
何か踏み出さなければ、新しいことは起きない。
親子ほど離れた女二人の同居は、とても居心地が良い。
陽子は帰ってくる度に仕事で疲れ切っているが、美味しそうに食事をしているのは微笑ましい。
陽子ももちろんできる限りのことを率先して動いた。
同居とはいえ家主は和代。
だから勝手なことは出来ないが電球交換に重い物の移動、食事の片付けなどをしていたのだが、和代からすれば大助かりだった。

距離感を大切にと言ったくせに、陽子が悩んでいる様子を感じると話せるように和代は気遣った。
最初は場を悪くしたくないと何も話さなかった陽子も、少しずつ仕事のことなどを話すようになった。
出会ったときは若葉の頃だったのに、今は秋。
秋というには暑すぎる日が続いているが、朝晩は涼しいと感じる日も出てきた。

「新人育成からは既に離れていますけど、新人が一足飛びで上司の私に文句を言う時代になったんですから凄い時代ですよ」

陽子はいわゆる就職氷河期世代、失われた世代だのと呼ばれ散々だった時代だ。
女と言うだけで履歴書は突っ返され、正社員への道は厳しかった。
正社員になれてたとしても薄給で休みもろくに無い。
有休が欲しいなどと言えるはずもなく、女性は結婚すれば辞めるのが当然だった。