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魔女さんと呼ばれる和代と、仕事に追われる陽子との同居は穏やかに進んだ。
陽子は新しい場所が見つかるまでと思っていたが、あまりに居心地がよくて最初の頃のように賃貸物件検索もおろそかになっていった。
和代としてはいつも一人だった広い家に、若い人がいてくれるのはとても心強かった。
食事を作れば嬉しそうに食べる相手がいて、家の中で自分以外の生活音がする。
その音が心を落ち着かせてくれる。
和代は戦後生まれだ。
名前は『平和の時代が続くように』との思いを込めて父親がつけたそうだ。
学生時代に親によって見合いさせられた相手は医者の卵。
病院を経営する息子で真面目な相手と結婚した和代は、子供にずっと恵まれず世間的に肩身の狭い思いをした。
義父母は何も言わないのが不思議だったが、和代の両親は孫の顔が見たいとせっついた。
だが夫は『自分に原因があるかもしれない。もしそうであるならば申し訳ない。子供に恵まれなかったら二人で生きていこう』と和代に告げた。
そして、夫が被爆していたことを和代は初めて知った。
夫の母は出産のため長崎に里帰りしていて被爆したそうだ。
何故義父母が何も和代に言わないのか合点がいった。
結局子宝には恵まれず沢山のことを夫婦で乗り越え、そろそろ六十歳になりそうな時、夫は言った。
『院長を退いたら、少し長く海外旅行に行こうか』と。
海外に二人で行ったのは新婚旅行と夫の海外出張に付き添った数回。
今度こそゆっくり出来ると思っていた。
だがそれは叶うこと無く、病院内で倒れた夫はそのまま亡くなった。