母親達の年齢は三十代前後。
彼女たちが若い頃から和代の年齢が変わっていないように思えるので魔女さんとこっそり呼んでいたが、子供達には内緒にすることなどわからず和代に話してしまったのだ。
和代がいつもワンピースを着ているのも子供にはより魔女に思えるらしい。
庭仕事でズボンを穿くこともあるのだが、外出ではワンピースだからそう思うのは自然なのだろう。

「魔女さんと呼ばれてもうどれくらい経つかしら」

子供はまた和代の手作りクッキーをもらい、満面の笑顔でクッキーの入った袋を抱えて帰って行った。
いまリビングのテーブルには陸が持ってきた有名店のバームクーヘンが切り分けてある。
今日の紅茶はイングリッシュブレックファースト。
ミルクにも合う定番の紅茶だ。
陽子は元々コーヒー派だったが、和代の影響ですっかり紅茶にはまってしまった。
多種多様な紅茶の種類にデザートとの組み合わせは無限大。
食事を大切に。
それが自分を大切にするという和代の教えに、陽子のメンタルはイライラすることがあっても随分と落ち着くことが増えた。

「子供が真面目な顔で呼んでて驚きました」

陽子の疑問に和代が説明すると、なるほどと思わず納得した。
若いときは老け顔と言われても、そのままで歳を取ったら逆転現象が起きることがある。
和代の場合はそれなのだろう。
陽子としては羨ましいと思っていいのかなんとも言えない。

「でも子供達もお母さん達もみな線引きはしっかりされていて、無茶な押しかけをすることもないし挨拶もされて立派なのよ」
「それは絶対この立地というか住民のレベルにあると思います」

他の地域なら和代など子供を預けるていのいい託児所代わりにされそうだし、食べ物をねだる子供に居着かれそうだ。
和代も理解はしていて線を引くところは引くのだが、子供が一人で来れば事情を聞き親に連絡することもある。
子供に逃げ場があっていい、それは和代のスタンスでもあった。
そんな和代に陽子はただ尊敬をしていつつ、余裕のある生活だから出来ることだろうと思ってしまう。
自分は一人きりの老後を迎えるのは間違い無い。
その不安を五十代も近くなり、陽子は心の片隅にいつも抱いていた。
和代の人付き合いは上手く、陽子としては見習わなければと思っていた。