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「魔女さん、こんにちは」
陽子が和代の家に住みだして初めての週末、玄関に入ってきたのは小学生くらいの少年で有名デパートの紙袋を両手で持っていた。
あどけない顔ながらも良い家の子供という雰囲気が醸し出ている。
「こんにちは、陸くん。
今日はどうかしたの?」
「お母さんからこれをお礼に渡すように言われました。
魔女さんのには叶わないけど気持ちだけでも受け取って欲しいって言ってました」
あらあらと和代は頬に手を当てて微笑んでいる。
少年は真っ直ぐな目で和代を見ていて、和代はワンピース姿だが少年の目線に合わせて床に膝をついて話していた。
和代は以前手作りのお菓子を庭などへ遊びに来た子供達に振る舞い、持ち帰りたいという子供には持たせていた。
しかし時代的に手作りを食べさせることは親が心配するかと思って、買ってきた物に変更した。
だが子供達から手作りのお菓子が食べたいと言われ、その上その母親達から実は手作りの菓子を子供達が持って帰ってきてそれを食べるのを楽しみにしていたと聞かされた。
そして子供達が和代を『魔女さん』といつの間にか呼び出していた。
どうやら母親達が和代をそう呼んでいることを、子供達がまねしたらしい。
親たちはそれを知って慌てふためき、謝罪にかわるがわるやってきた。