「それにね、人に優しくすることは自分に優しくすることと同じなのよ」
和代の言葉に陽子は『情けは人のためならず』ということかと思った。
よくその言葉は『人に情けをかけて助けることは、結局はその人のためにはならない』と誤解されているが、本来は『人に情けをかけておくと、巡り巡って結局は自分のためになる』という意味だ。
本来の意味で和代が言ったのだろうというのはわかった。
だが、和代は少し違うことを話した。
「優しさや親切にしている時って、自分が不機嫌であることはないわよね。
そういう積み重ねが自分を癒やすことになると思うの。
言ってみれば自分のためかしら。
自己満足とならないように気をつけないといけないのだけど」
和代は少しだけ舌を出すが、それすらチャーミングだ。
確かに和代を助けているとき、不機嫌でも悲しみも無かった。
それが当然かも知れないけれど、なんだか知らないことを気づかされたように思えた。
「それにね、色々考えれば悪いことしか考えないものよ。
まずはうちを見てから考えてみたら?
もちろん、しっかり食べた後にね」
紅茶を入れ替えてくるわね、と和代はティーポットを持って立ち上がる。
手伝いますという陽子を、食べるの止めさせてごめんなさいね、と食べることを促してスタスタと母屋に戻っていく。
細いようで力強くも思う背中を見て、陽子ははちみつをかけてキラキラした食べかけのフレンチトーストを見下ろす。
たまたま通っただけの道。
そこで知り合った女性から、魔法をかけられていくような気持ちに陽子はなっていた。
勇気を持って一歩踏み出せば何かが変わるのかも知れない、こんな歳でも。
大きめに切ったフレンチトーストを大きな口に運びながらそんなことを陽子は考えた。