君が僕を忘れてしまっても



学校にはだいぶ慣れてきた。


「おはよー、宇都宮先生」


「おはよう」


愛想よくにこっと笑いながら挨拶すると、途端に悲鳴が上がる。


「今日もかっこいいー!」


「やる気出るー!」


隠す気もない大きな声に苦笑いを浮かべた。


「あっ、妃唯ちゃん!おはよう!」


「おはよう、真由ちゃん」


その時、聞こえてきた声。


妃唯という名前と妃唯の声でもう反応している。


そんな自分に苦笑いしか出てこない。


「ねぇ、妃唯ちゃん!今流行ってる恋トキってドラマ見てる?」


「うん、見てるよ。キュンキュンするよね」


「あっ、見てるんだ!うん、もうヤバいよね!礼央君役の宗君もかっこいいし!」


「宗君かー。確かにかっこいいよね」


そんな会話が自然と耳に入ってきて。


宗という人を知らないけど、かっこいいと思うんだ……


少し黒い感情が僕を取り囲んだ。


もう妃唯の彼氏じゃないのに、宗という人に嫉妬してる。


しかも、芸能人なのに。


恋人気分でいる自分にため息をついた。


「宇都宮先生、どうかしましたー?」


「ううん、何でもないよ」


すっかり抜け落ちた敬語。


笑顔を貼り付けて、そう聞いてきた女の子に返事をした。


「うん、この解き方もいいと思うけど、もっと簡単なやり方があって……」


授業に関してはまだ慣れない。


このやり方でいいのか、まだ不安はあるけど。


「先生ー、そこはどうしてそうなるんですか?」


「それは……」


でも、分からないところがあったら分からないとはっきり口にしてくれるからありがたい。


意欲的な人が多いクラスだから、よかった。


「……ってなるんだよ。分かった?」


「はい、分かりました!」


自分なりに丁寧に解説すると、納得してもらえて。


今のところは上手く事が運んでると思う。





昼休み、重そうな物を運んでいる妃唯を見かけた。


それを見てためらいもなく、妃唯に声かけようとした自分に気づいて困惑する。


いや、でも今自分は教師だからおかしくないはず…… 


そう言い聞かせて声をかけようとしたら、先を越された。