「はぁっ、はぁっ……」


今日は僕の彼女・三波妃唯(みつばひゆ)とのデートだった。


妃唯は今まで遅刻したことないのに、約束の時間を大幅に過ぎても来なくて。


その時から嫌な予感はしていた。


もしかしたら、妃唯に何かあったんじゃないかって。


【妃唯が交通事故に遭ったみたいなの!綺月君、○△病院に今すぐ来られる!?】


そう思っていた頃に来たメール。


妃唯の母親の唯那さんから来たそのメールを見た瞬間、もう走り出していた。


全然生きた心地がしない。


妃唯、妃唯っ……


お願いだから、無事でいて……


必死にそう思いながら、病院へと行く足を速めた。


病院に着いた頃には息切れと耳鳴りが酷かった。


急いで来たから、髪も服も乱れてて、今の自分はかなり酷い身なりをしていただろう。


でも、そんなのを気にする余裕は一切なかった。


「すみませんっ、三波妃唯の病室はどこですかっ?」


「あ、はい。三波妃唯様でしたら、205号室です」 


教えてくれた受付の人にお礼を言って、妃唯がいる病室を目指した。


「唯那さんっ!」


妃唯の病室の前には妃唯の母親の唯那さんがいて。


声をかけると、ゆっくりとこっちを見た。


「綺月君……」


その顔はどこか暗くて、悲痛な感じのする表情だった。


「来てくれたのね」


少しだけ微笑んでくれるけど、今の僕には余裕が全くない。


「はい、あの、妃唯はどんな状態ですか?」


唯那さんの顔が暗いから、余計に不安だった。


今から僕は何を言われるんだろう……


それを聞いて、僕は受け入れられるのか……   


「無事よ。そこまで酷い怪我じゃないわ。ただ……」


言いずらそうに一旦言葉を切って。


でも、すぐにその後の言葉を続けた。


「記憶喪失になっちゃったみたいなの。それも、綺月君の記憶だけを忘れてしまったみたい」


その言葉を聞いた途端、頭が真っ白になった。


ドクドクと心臓の音がうるさい。


僕の世界から色が消えた、そう思えるくらいの衝撃だった。


「そう、ですか」


ようやく返せたのは、そのたった一言。


そんな僕を気の毒そうに見つめ、そしてまた悲痛な表情を浮かべて。


「そこでお願いがあるの」


何となく、次に言われる言葉に想像がついてしまった。