・【06 会話】


 僕は多分というか絶対にメンタルが弱いと思う。
 だからこそ自分から言い出さないと気が済まなかった。
 自分から全てを吐露しないと気が済まない状態になっていた。
 溝渕さんもそんなこと聞きたくないことは重々承知だけども、言わなきゃやってられなかった。
「僕も、溝渕さんと一緒で、自ら低い点数を取りました」
 その場に座り込んでいる僕の近くにやって来て、座った溝渕さんは優しい声でこう言った。
「最初から分かっているよ。君は俺にそっくりだからな。辛いなら言わなくてもいい」
 でも僕はもう堰が切れたように言葉が喉奥から溢れてきた。
「僕のせいで女子が、光莉が死にました。それを知ったのも時間がだいぶ経ってからで。自分の不甲斐なさが憎いです。何で自分のことばかり考えていたのか。何でもっと周りのことを気に掛けることができなかったのか。後悔しています。でももう遅いので死にたいんです。それなのに死ぬことはまだ早いと言われているように死ねなくて。こんな死ぬことさえできない無力な自分が心底嫌いです」
 溝渕さんは静かに頷いていた。真剣な表情で。
 喋り切った僕の肩を優しく叩きながら、溝渕さんは、
「まず第一に、光莉という女子が死んだのは田中くんのせいじゃないよ。それだけは言える。詳しくは知らないが、絶対に違う。見殺しにしたわけでもない。君のせいということはあり得ない事なんだよ」
 何だか、まるで溝渕さんが自分に言い聞かせるように確実に語っているような気もした。
 溝渕さんがそう思おうとしているといった感じだ。
 そう考えてしまう僕はきっと性格が悪いんだと思う。
 そのくせ狡猾なほど世渡りが上手いわけでもなく。
 こんなクソみたいな人格のところも大嫌いだ。僕は本当にクズだと思う。
 そんな僕の心の中は露知らず、溝渕さんはまた、ゆっくり、言葉をかみしめるように語り出した。
「人間は気付かないもんだ。自分の不幸にだって気付けないことが多いんだから、他人の気持ちならなおさらだ。勿論俺も今、田中くんの気持ちは一切分からない。何故、こんなに喋ったのかも分からない。でも言いたいことがあれば言ってもいいし、言いたくなければ言わなきゃいい。適当に暇潰しがしたければ、俺に何か聞いてもいいし、二度と会話しなくてもいい。とは言え、他の生徒が来た時はきっと喋ることになると思うがな」
 そう自嘲気味に笑った溝渕さん。
 まあ確かに誰か来たら喋ることになるだろうけども。
 溝渕さんは総じて優しい、だからこそ僕に似ているなんて思ったら自分で自分のこと優しいと言っている痛いヤツだけども。
 でももし誰かのことを想うような人間でなければ、僕は今ものうのうとこの学校で生きていたのかな。
 いやそんなIFなんて、もしかしたらなんて存在しない。
 僕はずっと僕だから、こんなことにもなってしまっているんだ。
 今更変わることはきっとできない。
 だからこれから一生僕はこの自殺室にいることになるんだと思う。
 一生というか死ねず、生き続けるんだろう。
 それとも溝渕さんと接していくうちに、何か変われるようになるのだろうか。
 いや変われないと思う。
 でも変わるとしたら溝渕さんと交流するしかないと思う。
 溝渕さんは第一印象ほど嫌な人ではないし、この人と会話していけば何か生きたい……って、思うかぁ?
 溝渕さんが良い人なことは分かる。
 でも交流することによって生きたいと思うことは無いだろう。
 それとも一緒に何か面白い暇潰しを発見して、ずっとその暇潰しがやりたいね、ってなって、一生生きてこの暇潰しやっていきましょうってなって、死ねたりするかぁ?
 いやしないだろ、正直僕も溝渕さんもそんなバカじゃない。
 そんなバカなら悩んでいないと思うし、そもそもこの学校に入学できていないと思う。
 でも変えるには何かを変えないといけない。
 ということは溝渕さんと会話してみることも手かもしれない、と思ったところで、何だか部屋の空気が変わったような感覚がした。