黄昏時、まぶしいくらいのミルキーベージュの髪を夕陽が淡く照らしていく。
 頭上からは哀愁を物語るようにカラスの鳴き声が聞こえてくる。
 帝はみんなの溜まり場である薄暗いゲームセンターの裏側で考え事をしていた。
 心はこんなにも重苦しくムシャクシャしているのに、ゲームセンターでその苛立ちを発散する気分にもなれない。
「ガムを買いに行ったんじゃなかったのか?」
 靴音が近づいてきていることには気がついていたが、帝はその人物のほうには顔を向けずに足元だけを一点見つめている。
 順平は帝の隣に立つと、コンビニで買ってきたフルーツガムを帝に手渡した。
 順平も冬嗣同様に帝の好みをよく把握しているのだ。
「弥宵の奴、一人でかっこつけやがって。お人好しのバカ野郎だよな」
 そしてそんな弥宵のことを信じきれなかった自分はもっとバカ野郎で最低だなと、帝は己の浅はかさを罵倒した。
「今、どこで何をやってんのか知らねーけど、必ず見つけだしてオレがボコボコにブン殴ってやる」
 芽羽に卑劣な猥褻(わいせつ)行為をして、望んでもいない心的外傷(トラウマ)を植え付けた学童指導員の男は夏休みが終わる頃に逃げるように退職した。
 死よりもはるかに恐怖な地獄を味あわせてやると、社会復帰が不可能なほどに残忍な懲罰を与えてやると帝は殺気立つ。
「俺はまったくの無関係だけど、帝がそこまでボコボコに殴って痛めつけたいと思っている奴がいるなら手伝ってやるよ」
 加勢に意欲的な態度を示す順平だが、帝はどこか気乗りしない様子で表情を曇らす。
「これはオレが勝手に始めようとしている問題だ。順平を巻き込めねーよ」
 何かと敵を作りやすい帝はあらゆる方面から恨みを買われることが多い。
 その結果、帝と常に行動を共にしている順平や冬嗣にまで危害が及び、何度も怪我をさせてしまったことがあるのだ。
「今さら遠慮すんなって。帝の無鉄砲にはもう慣れてるよ」
 友人のために無茶苦茶な行動を起こす帝のことを順平は好感を持っているのだ。
 順平は偽善者ではない。嫌いな人の嗜好に合わせてまで友情を育もうとするなど滑稽すぎて失笑すら洩れない。
 大層ご機嫌斜めだった帝だが、不意に垣間見た順平の飾らない漢気に触れたことで心が軽くなったような気がした。