これは冗談? それとも本気?
深読みしすぎた糢嘉は動揺してしまい『絶対に忘れたくはない大切な事柄』を書いてる途中でノートを地面に落としてしまった。
そのノートを弥宵がすかさず拾い、偶然ノートの中身が見えてしまったのだが、糢嘉の筆跡で書かれた文面は途中で途切れてしまっている。
これでは糢嘉がその続きをなんて書こうとしていたのかがわからない。しかし、どうやら弥宵にはすべてお見通しらしい。
「ねえ、モカ。今、僕とキスしたことは書いてくれないの?」
唇に人差し指を当てて、茶化すようにおねだりをしてくる弥宵の仕草に糢嘉は面食らってしまう。
「僕はモカに忘れてほしくないから、今、モカとキスしたことをノートに書くよ。たくさん書くよ」
弥宵は勉強で使用しているノートを一冊、鞄の中から取り出すとすぐに糢嘉とキスしたことを書き記す……のではなくて、弥宵が試みたのは大胆にも再び糢嘉の唇を自分自身の唇で塞ぎ、それとほぼ同時にスマートフォンを片手で素早く操作した。
不意打ちとばかりに弥宵からキスをされた糢嘉が驚く暇もないうちに、カシャっという壮快なシャッター音が鼓膜をくすぐる。
「文字で残しておくのも良いけれど、画像のほうが説得力あると思わない?」
突発的にカメラを構えたわりには、糢嘉とのキスシーンがなかなか見映え良く写っていたものだから弥宵はご満悦だ。
「なっ……にを撮ってんだよ! ふざけんなよ! 今すぐ消せよ!」
顔を真っ赤に染めた糢嘉がすぐに弥宵の手からスマートフォンを奪い取ろうとするが、高身長の弥宵が相手ではまるで歯が立たない。
「ダメ。これは絶対に消せない。消したくないよ。永久保存する」
イタズラ心に火がついた弥宵の暴走は止まる気配がまるでない。
今しがた誕生した宝物をうっとりとした瞳で眺めている弥宵の姿に観念したのか、糢嘉は反抗する気力が失せてしまった。
そして、糢嘉も弥宵同様に自分のワガママを貫き通そうとする。
「その画像、あとで俺にも送れよ……。俺も永久保存するから……」
どんなに無関心を装っていようとも、その場しのぎの嘘で塗り固めようとしてみても、一度爆発してしまった恋情には逆らえない。
苦虫を噛み潰したような表情とは真逆に糢嘉の声色は弾んでおり、嬉しさが滲み出てきてしまう。
だから弥宵もどんどん積極的になり、その行動力をゆるめない。
「せっかくだから、記念にもう一枚撮ろうか?」
調子に乗った弥宵がさらに宝物の画像を増やそうとする。弥宵が糢嘉の顔に覆い被さるようにして、そのまま勢い任せにキスしようとしたら 、
「一枚だけで充分だよ!」
その挑発的に接近してくる弥宵の顔を糢嘉は必死になって押し退けようとするが、糢嘉が本気で抵抗していないことなど弥宵には見抜かれてしまっている。
あえて不満を述べるとするならば、スマートフォンでの撮影だとフレームサイズが小さすぎるということだ。
前途多難な恋の幕開けは順風満帆には進まないであろう。
たとえば友情と恋愛を比較したとき、どちらの関係性のほうが長続きするのだろうか。
充実感あふれる青春ドラマではなく、苦難の絶えない恋愛映画の結末は最高のハッピーエンドで終わらせたい。
愛する弥宵との記憶を死守するためならば、糢嘉は休む暇もなくノートにたくさんの文字を書き綴り、喜んで腱鞘炎になることだろう。
ところで、もったいないことに弥宵と糢嘉はコーヒーと一緒にロールケーキとサンドイッチを食べ残してしまいました。
一刻も早くそのことに気づいてあげないと、マスターの機嫌を損ねることになりますよ。
そうなってしまったら、大切な記憶は失わなくても、マスターの好意によるサービスは失ってしまう恐れがありますよ。お気に入りの喫茶店で有意義に過ごせる大切な時間がなくなっても良いのですか?
時には若さゆえの熱情に溺れるのも構いませんが、一刻も早く喫茶店へと戻ってあげて、マスター自慢のコーヒーを飲みながらデザートを完食してくださいね。
深読みしすぎた糢嘉は動揺してしまい『絶対に忘れたくはない大切な事柄』を書いてる途中でノートを地面に落としてしまった。
そのノートを弥宵がすかさず拾い、偶然ノートの中身が見えてしまったのだが、糢嘉の筆跡で書かれた文面は途中で途切れてしまっている。
これでは糢嘉がその続きをなんて書こうとしていたのかがわからない。しかし、どうやら弥宵にはすべてお見通しらしい。
「ねえ、モカ。今、僕とキスしたことは書いてくれないの?」
唇に人差し指を当てて、茶化すようにおねだりをしてくる弥宵の仕草に糢嘉は面食らってしまう。
「僕はモカに忘れてほしくないから、今、モカとキスしたことをノートに書くよ。たくさん書くよ」
弥宵は勉強で使用しているノートを一冊、鞄の中から取り出すとすぐに糢嘉とキスしたことを書き記す……のではなくて、弥宵が試みたのは大胆にも再び糢嘉の唇を自分自身の唇で塞ぎ、それとほぼ同時にスマートフォンを片手で素早く操作した。
不意打ちとばかりに弥宵からキスをされた糢嘉が驚く暇もないうちに、カシャっという壮快なシャッター音が鼓膜をくすぐる。
「文字で残しておくのも良いけれど、画像のほうが説得力あると思わない?」
突発的にカメラを構えたわりには、糢嘉とのキスシーンがなかなか見映え良く写っていたものだから弥宵はご満悦だ。
「なっ……にを撮ってんだよ! ふざけんなよ! 今すぐ消せよ!」
顔を真っ赤に染めた糢嘉がすぐに弥宵の手からスマートフォンを奪い取ろうとするが、高身長の弥宵が相手ではまるで歯が立たない。
「ダメ。これは絶対に消せない。消したくないよ。永久保存する」
イタズラ心に火がついた弥宵の暴走は止まる気配がまるでない。
今しがた誕生した宝物をうっとりとした瞳で眺めている弥宵の姿に観念したのか、糢嘉は反抗する気力が失せてしまった。
そして、糢嘉も弥宵同様に自分のワガママを貫き通そうとする。
「その画像、あとで俺にも送れよ……。俺も永久保存するから……」
どんなに無関心を装っていようとも、その場しのぎの嘘で塗り固めようとしてみても、一度爆発してしまった恋情には逆らえない。
苦虫を噛み潰したような表情とは真逆に糢嘉の声色は弾んでおり、嬉しさが滲み出てきてしまう。
だから弥宵もどんどん積極的になり、その行動力をゆるめない。
「せっかくだから、記念にもう一枚撮ろうか?」
調子に乗った弥宵がさらに宝物の画像を増やそうとする。弥宵が糢嘉の顔に覆い被さるようにして、そのまま勢い任せにキスしようとしたら 、
「一枚だけで充分だよ!」
その挑発的に接近してくる弥宵の顔を糢嘉は必死になって押し退けようとするが、糢嘉が本気で抵抗していないことなど弥宵には見抜かれてしまっている。
あえて不満を述べるとするならば、スマートフォンでの撮影だとフレームサイズが小さすぎるということだ。
前途多難な恋の幕開けは順風満帆には進まないであろう。
たとえば友情と恋愛を比較したとき、どちらの関係性のほうが長続きするのだろうか。
充実感あふれる青春ドラマではなく、苦難の絶えない恋愛映画の結末は最高のハッピーエンドで終わらせたい。
愛する弥宵との記憶を死守するためならば、糢嘉は休む暇もなくノートにたくさんの文字を書き綴り、喜んで腱鞘炎になることだろう。
ところで、もったいないことに弥宵と糢嘉はコーヒーと一緒にロールケーキとサンドイッチを食べ残してしまいました。
一刻も早くそのことに気づいてあげないと、マスターの機嫌を損ねることになりますよ。
そうなってしまったら、大切な記憶は失わなくても、マスターの好意によるサービスは失ってしまう恐れがありますよ。お気に入りの喫茶店で有意義に過ごせる大切な時間がなくなっても良いのですか?
時には若さゆえの熱情に溺れるのも構いませんが、一刻も早く喫茶店へと戻ってあげて、マスター自慢のコーヒーを飲みながらデザートを完食してくださいね。