三限めの授業を終えた休み時間。
教室の窓から差し込む睡眠を誘う木漏れ日と戯れながら、片桐芽羽が一人の女子生徒に声をかける。
「琴寧。何を見ているの?」
琴寧が見ているのは手帳サイズのアルバムだ。そこに収納された一枚の写真を飽きもせずにじっと眺めている。
十歳児のあどけない少年四人と少女二人が絶景の大自然を背景にその真ん中で仲良く笑いあっている。
心豊かになる実にほほ笑ましい写真だ。
「私が生まれて初めて好きになった人」
リップで光る綺麗な桃色の唇がゆっくりと動いた。
一昔前では一般的だったであろう女子学生の代名詞とも言える長いおさげ髪を長年維持しており、地味な眼鏡は知的さを強調させる要素の一つにすぎない。
制服のスカート丈は膝より下でそれ以上短くしたことはなく、黒のタイツは必需品だ。
優秀な美をまとって生まれてきたといっても過言ではない宮谷琴寧の発言に芽羽の表情がひきつった。
芽羽が制服を規定通りに着用してきたことなど一度もない。
夜の街にお勤めするには違和感なく馴染むのかもしれないが、学校の制服と組み合わせるには目の毒にしかならない派手なネックレスを芽羽はほぼ毎日装飾している。
両手首はパール使用のミックスラップブレスレットによって覆い隠されている。
夕焼けよりも鮮やかな橙色に染めた髪にはパーマをかけており、ブレスレットに合わせた大粒パールの並んだカチューシャを頭に付けている。
そんな風貌をしていることから、芽羽はほぼ毎日教師たちから注意される。
生活指導室の常連の顔とも言える芽羽が、生活指導室とは無縁の琴寧と毎日一緒にいる不思議も『幼馴染み』という理由一つでクラスメイト全員を納得させてしまうのだから、世の中は案外単純に構成されている。
そしてなにより、芽羽は教師という存在を心底毛嫌いしていた。
絶対に教師の言いなりになるものかと、芽羽の髪色と身に付けているアクセサリーは日に日に派手になっていく。
芽羽は教師が生徒を守ってくれるとは少しも思っておらず、むしろ生徒を押さえつけるだけの醜い怪物だと思っている。
「今でも好きなの。大好きなの。モカくん、早く会いたいよ。モカくんは今、どこにいるの?」
琴寧がおっとりとした声で囁く。琴寧の淡い昔話にうっとりと聞き入ってあげたいところだが、芽羽はあえて何も言わずに無視をする。
「弥宵くんにだけには絶対に渡さないんだから」
真実を知らぬまま高校二年生にまで成長した琴寧はその清楚な物腰からは想像もつかないほどの憎悪を心の中に住まわしており、それは日に日に強まり膿のように広がっていく。
そんな琴寧を見るたびに、芽羽の心は激しく痛む。
それでも真実を打ち明けられず、キーホルダーを封印したまま高校二年生にまで成長した芽羽は苦悩し続けている。
引き分け状態で「サヨナラ」した大喧嘩が長い時を経て再発しようとしていた。
教室の窓から差し込む睡眠を誘う木漏れ日と戯れながら、片桐芽羽が一人の女子生徒に声をかける。
「琴寧。何を見ているの?」
琴寧が見ているのは手帳サイズのアルバムだ。そこに収納された一枚の写真を飽きもせずにじっと眺めている。
十歳児のあどけない少年四人と少女二人が絶景の大自然を背景にその真ん中で仲良く笑いあっている。
心豊かになる実にほほ笑ましい写真だ。
「私が生まれて初めて好きになった人」
リップで光る綺麗な桃色の唇がゆっくりと動いた。
一昔前では一般的だったであろう女子学生の代名詞とも言える長いおさげ髪を長年維持しており、地味な眼鏡は知的さを強調させる要素の一つにすぎない。
制服のスカート丈は膝より下でそれ以上短くしたことはなく、黒のタイツは必需品だ。
優秀な美をまとって生まれてきたといっても過言ではない宮谷琴寧の発言に芽羽の表情がひきつった。
芽羽が制服を規定通りに着用してきたことなど一度もない。
夜の街にお勤めするには違和感なく馴染むのかもしれないが、学校の制服と組み合わせるには目の毒にしかならない派手なネックレスを芽羽はほぼ毎日装飾している。
両手首はパール使用のミックスラップブレスレットによって覆い隠されている。
夕焼けよりも鮮やかな橙色に染めた髪にはパーマをかけており、ブレスレットに合わせた大粒パールの並んだカチューシャを頭に付けている。
そんな風貌をしていることから、芽羽はほぼ毎日教師たちから注意される。
生活指導室の常連の顔とも言える芽羽が、生活指導室とは無縁の琴寧と毎日一緒にいる不思議も『幼馴染み』という理由一つでクラスメイト全員を納得させてしまうのだから、世の中は案外単純に構成されている。
そしてなにより、芽羽は教師という存在を心底毛嫌いしていた。
絶対に教師の言いなりになるものかと、芽羽の髪色と身に付けているアクセサリーは日に日に派手になっていく。
芽羽は教師が生徒を守ってくれるとは少しも思っておらず、むしろ生徒を押さえつけるだけの醜い怪物だと思っている。
「今でも好きなの。大好きなの。モカくん、早く会いたいよ。モカくんは今、どこにいるの?」
琴寧がおっとりとした声で囁く。琴寧の淡い昔話にうっとりと聞き入ってあげたいところだが、芽羽はあえて何も言わずに無視をする。
「弥宵くんにだけには絶対に渡さないんだから」
真実を知らぬまま高校二年生にまで成長した琴寧はその清楚な物腰からは想像もつかないほどの憎悪を心の中に住まわしており、それは日に日に強まり膿のように広がっていく。
そんな琴寧を見るたびに、芽羽の心は激しく痛む。
それでも真実を打ち明けられず、キーホルダーを封印したまま高校二年生にまで成長した芽羽は苦悩し続けている。
引き分け状態で「サヨナラ」した大喧嘩が長い時を経て再発しようとしていた。