唯一の女子、岸森ルナにいたっては岩瀬瑚城と地面に座り込んでトランプ遊びをしている。
こんな薄暗く辛気臭い場所で楽しくトランプゲームとは、なんと可笑しな光景なのだろうか。
どうやら、ここはこの四人の溜まり場らしい。
ルナが着用している制服のスカートの短さは、ルナの細長く綺麗な足をさらに強調させている。
キャラメルブラウンに染めた耳を隠せないほどのベリーショートの髪は小顔なルナにはよく似合う。おかげで両耳に付けている無駄に大きなピアスが目立ってしかたない。爪に塗っている赤紫のネイルも不気味に目立っている。
「帝。悪いことはしちゃダメだよ。女の子は大切に扱わなくちゃ。ね、ルナ」
優しい声でそう言ってはいるが、瑚城はトランプのジョーカーをひらひらと見せながら怯える花苗を楽しそうに見ている。
両側で編まれたおさげ帽子を被り、フード付きのトレーナーを着ている瑚城はどう見ても高校二年生の男には見えない。座っていてわかりにくいが、おそらく瑚城の身長は百六十センチないだろう。そのうえ、くっきりとした二重瞼に長い睫毛が瑚城をさらに可愛い女顔にさせている。
「瑚城、これはババ抜きだよ。自分からジョーカーを見せたらゲームにならないよ」
「あ、そっか。失敗しちゃった」
ペロッと舌を出しておどけて見せる瑚城にルナは目尻をふんわりとたるませながら静かに笑った。そしてトランプゲームを再開させる。
ルナは滅多に笑わない。ツリ目のせいもあり愛想が悪いと誤解されやすいが、器量の良いルナが笑うと非常に美人だ。
「二人でババ抜きして楽しいの? 二人だけだと、どっちがジョーカーを持っているのかわかっちゃうじゃん」
「もお! 順平は黙っててよ! ボクはルナとトランプしてるの!」
順平に横から口出しされて瑚城はご立腹の様子だ。
「俺だけ仲間外れ? 冷たいこと言うね」
順平はちょっとした冗談のつもりで拗ねて見せただけなのだが、どうやら瑚城は本気にしてしまったらしく、順平に疎外感を与えてしまったと罪悪感にかられてしまう。
瑚城は仲間意識が強い。帝、ルナ、瑚城は同じ高校だが、順平だけが違う高校に通っているのだということにさえ瑚城は寂しがっているのだ。
「順平もトランプやる?」
ここでトランプをすることは順平からしてみたらくだらないゲームにすぎないのだが、順平は瑚城の優しさを無下にしたくないと思っている。
「うん、やろうかな。俺も瑚城と遊びたい」
「エッヘヘ~。実はボクも順平とトランプやりたいなって思っていたんだよ! ルナ、順平にもトランプを配ってあげてね」
「オッケー」
順平も加わったことで瑚城に満面の笑顔が広がる。瑚城はとても嬉しそうだ。
そんな瑚城に順平とルナは柔和な眼差しを向ける。
順平、ルナ、瑚城の三人は同い年だが、瑚城は順平とルナから実の弟のように可愛がられているのだ。
瑚城も順平とルナのことを実の兄と姉のように慕っている。
和気あいあいとしたトランプゲームの隣では険悪な雰囲気が継続中だ。
帝以外の三人が花苗を無視するなか、帝はまだ花苗を逃がそうとはしない。
「お前、弥宵の女?」
花苗は口を一文字に閉じて、首の骨が折れそうなほどの勢いで頭を左右に振った。
あまりの恐怖に負けてしまったのか、花苗の瞳から涙が一粒こぼれ落ちた。
「永倉弥宵に付きまとっている女の一人だろ」
無視していたと思っていた順平がトランプをしながら気だるそうに言った。
花苗は弥宵の彼女になりたいと望んではいるが、順平の言ったとおり花苗は弥宵に取り巻いている女子の一人にすぎない。
「ただのストーカーかよ。キメェ女だな」
帝は毒舌を吐きつつ、さらに花苗ににじり寄り距離を詰めてくる。
「〝これ〟を弥宵から貰ったのか?」
「さ、さっき、弥宵くんが落として……」
結歌璃がトイレに入っている間、花苗は弥宵と糢嘉が手を繋いで駅から走って行くところを見ていた。
花苗は弥宵に好意を寄せてはいるものの、結歌璃のように積極的に話しかける勇気がない。
これが結歌璃だったなら、すぐさま弥宵と糢嘉を大声で呼び止めたであろう。
花苗も結歌璃同様に弥宵と糢嘉が一緒にいる意外性に驚いていた。
そこで少しトイレから離れたのが間違いだったのだ。一歩も動かずにトイレの前でおとなしく結歌璃のことを待っていれば良かったのだ。
弥宵と糢嘉が駅構内から走り去るとき、花苗は弥宵が一つのキーホルダーを落とすところを見た。
そのキーホルダーを手に持ち、花苗はトイレの前に戻った。
キーホルダーを自分の顔の前で何気なく揺らしていたところ、突然キーホルダーを持っていたほうの腕ごと帝の手に強く掴まれて無理矢理ここまで連れてこられたのだ。
「で? その弥宵は今、どこにいるんだ?」
「……松崎くんと、どこかに行っちゃった……」
「まつざき?」
帝は花苗から順平へと視線を移し(松崎が誰だか教えろ!)と、声には出さず切れ長の瞳だけでたずねた。
「さあ? 俺は知らない」
順平は弥宵のことは知っていたが、糢嘉のことは知らなかった。
帝は『松崎』に興味を示す。
「テメェの言う松崎って、まつざきもかって名前?」
そう訊かれても花苗は糢嘉のフルネームを正確に思いだせないでいる。
だが、花苗からいくつかヒントを得た帝は神妙な顔つきになり、
「弥宵とモカコーヒーは同じ高校なのか……?」
と、独り言のように疑問系で呟いた。
「は? モカコーヒー?」
順平は帝が何を言っているのかわからない。
なぜ、ここでコーヒーが出てくるのか意味不明だ。
こんな薄暗く辛気臭い場所で楽しくトランプゲームとは、なんと可笑しな光景なのだろうか。
どうやら、ここはこの四人の溜まり場らしい。
ルナが着用している制服のスカートの短さは、ルナの細長く綺麗な足をさらに強調させている。
キャラメルブラウンに染めた耳を隠せないほどのベリーショートの髪は小顔なルナにはよく似合う。おかげで両耳に付けている無駄に大きなピアスが目立ってしかたない。爪に塗っている赤紫のネイルも不気味に目立っている。
「帝。悪いことはしちゃダメだよ。女の子は大切に扱わなくちゃ。ね、ルナ」
優しい声でそう言ってはいるが、瑚城はトランプのジョーカーをひらひらと見せながら怯える花苗を楽しそうに見ている。
両側で編まれたおさげ帽子を被り、フード付きのトレーナーを着ている瑚城はどう見ても高校二年生の男には見えない。座っていてわかりにくいが、おそらく瑚城の身長は百六十センチないだろう。そのうえ、くっきりとした二重瞼に長い睫毛が瑚城をさらに可愛い女顔にさせている。
「瑚城、これはババ抜きだよ。自分からジョーカーを見せたらゲームにならないよ」
「あ、そっか。失敗しちゃった」
ペロッと舌を出しておどけて見せる瑚城にルナは目尻をふんわりとたるませながら静かに笑った。そしてトランプゲームを再開させる。
ルナは滅多に笑わない。ツリ目のせいもあり愛想が悪いと誤解されやすいが、器量の良いルナが笑うと非常に美人だ。
「二人でババ抜きして楽しいの? 二人だけだと、どっちがジョーカーを持っているのかわかっちゃうじゃん」
「もお! 順平は黙っててよ! ボクはルナとトランプしてるの!」
順平に横から口出しされて瑚城はご立腹の様子だ。
「俺だけ仲間外れ? 冷たいこと言うね」
順平はちょっとした冗談のつもりで拗ねて見せただけなのだが、どうやら瑚城は本気にしてしまったらしく、順平に疎外感を与えてしまったと罪悪感にかられてしまう。
瑚城は仲間意識が強い。帝、ルナ、瑚城は同じ高校だが、順平だけが違う高校に通っているのだということにさえ瑚城は寂しがっているのだ。
「順平もトランプやる?」
ここでトランプをすることは順平からしてみたらくだらないゲームにすぎないのだが、順平は瑚城の優しさを無下にしたくないと思っている。
「うん、やろうかな。俺も瑚城と遊びたい」
「エッヘヘ~。実はボクも順平とトランプやりたいなって思っていたんだよ! ルナ、順平にもトランプを配ってあげてね」
「オッケー」
順平も加わったことで瑚城に満面の笑顔が広がる。瑚城はとても嬉しそうだ。
そんな瑚城に順平とルナは柔和な眼差しを向ける。
順平、ルナ、瑚城の三人は同い年だが、瑚城は順平とルナから実の弟のように可愛がられているのだ。
瑚城も順平とルナのことを実の兄と姉のように慕っている。
和気あいあいとしたトランプゲームの隣では険悪な雰囲気が継続中だ。
帝以外の三人が花苗を無視するなか、帝はまだ花苗を逃がそうとはしない。
「お前、弥宵の女?」
花苗は口を一文字に閉じて、首の骨が折れそうなほどの勢いで頭を左右に振った。
あまりの恐怖に負けてしまったのか、花苗の瞳から涙が一粒こぼれ落ちた。
「永倉弥宵に付きまとっている女の一人だろ」
無視していたと思っていた順平がトランプをしながら気だるそうに言った。
花苗は弥宵の彼女になりたいと望んではいるが、順平の言ったとおり花苗は弥宵に取り巻いている女子の一人にすぎない。
「ただのストーカーかよ。キメェ女だな」
帝は毒舌を吐きつつ、さらに花苗ににじり寄り距離を詰めてくる。
「〝これ〟を弥宵から貰ったのか?」
「さ、さっき、弥宵くんが落として……」
結歌璃がトイレに入っている間、花苗は弥宵と糢嘉が手を繋いで駅から走って行くところを見ていた。
花苗は弥宵に好意を寄せてはいるものの、結歌璃のように積極的に話しかける勇気がない。
これが結歌璃だったなら、すぐさま弥宵と糢嘉を大声で呼び止めたであろう。
花苗も結歌璃同様に弥宵と糢嘉が一緒にいる意外性に驚いていた。
そこで少しトイレから離れたのが間違いだったのだ。一歩も動かずにトイレの前でおとなしく結歌璃のことを待っていれば良かったのだ。
弥宵と糢嘉が駅構内から走り去るとき、花苗は弥宵が一つのキーホルダーを落とすところを見た。
そのキーホルダーを手に持ち、花苗はトイレの前に戻った。
キーホルダーを自分の顔の前で何気なく揺らしていたところ、突然キーホルダーを持っていたほうの腕ごと帝の手に強く掴まれて無理矢理ここまで連れてこられたのだ。
「で? その弥宵は今、どこにいるんだ?」
「……松崎くんと、どこかに行っちゃった……」
「まつざき?」
帝は花苗から順平へと視線を移し(松崎が誰だか教えろ!)と、声には出さず切れ長の瞳だけでたずねた。
「さあ? 俺は知らない」
順平は弥宵のことは知っていたが、糢嘉のことは知らなかった。
帝は『松崎』に興味を示す。
「テメェの言う松崎って、まつざきもかって名前?」
そう訊かれても花苗は糢嘉のフルネームを正確に思いだせないでいる。
だが、花苗からいくつかヒントを得た帝は神妙な顔つきになり、
「弥宵とモカコーヒーは同じ高校なのか……?」
と、独り言のように疑問系で呟いた。
「は? モカコーヒー?」
順平は帝が何を言っているのかわからない。
なぜ、ここでコーヒーが出てくるのか意味不明だ。