「ちょっとお~。ヒソヒソ話なんかしてあやしい~」
まだいたのか。とっととどこかに行ってほしいと弥宵は呆れ気味にため息を吐いた。
結歌璃の興味の矛先が弥宵から糢嘉へと向けられる。
「ねえ、ねえ、松崎くん。いつから弥宵と仲良くなったの?」
学校で弥宵と糢嘉が一緒にいたことは一度もない。
そんな二人が学校にも行かず平日の午前中に意味ありげに歩いていれば、たとえ結歌璃ではないほかのクラスメイトだったとしても謎解きをしたくなるであろう。
糢嘉は自分と弥宵の関係を結歌璃にどう伝えるべきかと考え込む。
「恋人です」なんて真実を言えるはずもなく……。
そこに弥宵がすかさずフォローに入る。
「滝寺さん。モカ、困ってるから」
「モカ?」
結歌璃は首を斜めに傾けて、誰だっけ? といった顔をしている。
結歌璃の頭の中で『松崎くん』イコール『モカ』が結びつかない。
「モカのフルネームを知らないの? 松崎糢嘉だよ」
「えぇー! 松崎くん、弥宵から下の名前で呼ばれているの⁉ 良いなあ~! ずっるぅーい! ねえ、ねえ、弥宵。ワタシのこともユカリって呼んで」
「呼ばないよ。それより滝寺さん、ここで何しているの?」
弥宵の声のトーンが段々と低くなる。
あきらかに弥宵は結歌璃にイライラしている。
「ワタシとライン交換してくれたら、教えてあげる」
どんなに弥宵から冷たい態度をされても、それにめげることなく結歌璃は交換条件を持ちかけてきて己の思うがままの道を突き進む。
恐るべし、天然!
そしてなんという図太い神経の持ち主だろうか。
「そう、残念だな。僕、滝寺さんとライン交換したくない。じゃあ僕たちはこれで。モカ、行こう」
弥宵と結歌璃の会話はまるで喜劇だ。
そして弥宵は結歌璃とのライン交換は即座に断った。
糢嘉には簡単に教えたのに。糢嘉には弥宵のほうから「番号とメアド教えて。ライン交換もしたい」と積極的に言ってきたのに。
糢嘉には結歌璃のように自慢できるような大きい胸はないけれど、弥宵の胸に抱きしめてもらえる特権を持っている。
弥宵の胸の奥底に潜む熱情は糢嘉だけを想っている。
永倉弥宵は松崎糢嘉だけを愛しているのだ。
弥宵と糢嘉に置いてきぼりにされた結歌璃は、
「あぁーん! 待ってえ~! 花苗を探してるの!」
とある人物の名前を述べた。
結歌璃ほど強引ではないが、花苗も弥宵に好意を寄せている女子の一人である。そしてクラスメイトだ。
「ワタシが駅のトイレに入っている間にね、花苗に外で待っててもらったんだけど、トイレから出たら花苗がいなくなってたの。スマホに電話してもでないし。しかもね、しかもね、さっき花苗から『助けて』ってラインがきたの! すっごく心配! もう花苗ったらどこに行っちゃったのお~?」
結歌璃の深刻みのない軽々しい話し方に、
「……本当に心配してるの?」
と、弥宵は疑念の視線を結歌璃にぶつけた。
「心配してるよ。花苗は一番の友達だもん。親友だもん」
結歌璃のすがりつくような困った顔を見て、弥宵は正直厄介だな……と思ったが、それでも、
「僕も一緒に探すよ」
こんなふうに協力的になってしまうのは、結歌璃から花苗を一緒に探してほしいな。と目で訴えられているのと、この場が今、みんなで花苗を探すのが当然! といった雰囲気になっているからだ。
そしてこれは弥宵の優しさによるものでもある。
だけどたった今、糢嘉に結歌璃との関係を嫉妬されたばかりだ。
この人探しの手助けは糢嘉を不機嫌にさせてしまわないかなと弥宵は不安になる。
「モカ、ごめんね」
叱られるのではないかと怯えるように謝られては、糢嘉も怒れるはずがない。
むしろここで怒ったりなんかしたら人格を否定されそうだ。
「あ、いや……。なんか事件に巻き込まれていたら大変だし、俺も探すの手伝うよ」
「えっ⁉ 事件⁉ いやあーん! こわあーい!」
「滝寺さん。ちょっと黙っていてくれないかな」
弥宵は「一緒に探すよ」と言ったことに早くも後悔した。
「弥宵は松崎くんとここで何しているの?」
「またその話?」
まだ結歌璃はこだわっていて、弥宵からしつこくてうんざりだという態度を示されても引き下がろうとはしない。
それに弥宵も糢嘉に対してはうんざりするほどしつこいため、結歌璃のことをそこまで偉そうに責められないのだ。
「だって気になるよおー! 弥宵と松崎くんが一緒にいるなんてすっごく意外なんだもん。これは教えてくれてもいいでしょう?」
ここで言わなければ結歌璃から毎日質問責めされそうだ。
諦めた弥宵は結歌璃の顔も見ずに、ほぼ投げやりなかんじで事情を説明することにした。
「学校サボッて喫茶店でモカと一緒にコーヒーを飲んでたんだよ」
それを聞いた結歌璃の瞳が爛々とかがやき、大きく前に一歩踏み出して弥宵に詰め寄る。それに警戒した弥宵は結歌璃から一歩後ずさった。
「弥宵も学校サボッたりするんだあ~。ビックリ~。でもそんな意外性なところも素敵。ますます好きになっちゃった」
結歌璃が弥宵と糢嘉の間に割り込んできて、再び弥宵の腕に自分自身の腕を絡ませる。
ところが、今回は前回と違って糢嘉の腕にも絡みつく。女特有の柔らかい豊満な胸の感触のおまけもつけて。
「じゃあ弥宵と松崎くんはお友達なんだね。モカくん、これからヨロシクネ!」
数分前まで糢嘉の名前も知らなかった結歌璃が弥宵と同じく「モカ」と呼ぶ。
お調子者なのか。楽観的なのか。
これからは弥宵だけではなく、糢嘉も結歌璃の餌食になることだろう。
あの落ち着いた喫茶店でコーヒーを飲むのは後回しになってしまったが、結歌璃の親友、花苗の「助けて」が気がかりだ。
本当に花苗はなんらかしらの危険な事件に巻き込まれているのだろうか?
それとも、ただの悪ふざけなのだろうか?
結歌璃と花苗は弥宵と糢嘉を騙しているのだろうか?
結歌璃と花苗は心で結ばれた友情?
それとも、悪巧みで結ばれた友情?
さあ、真相を探しに出かけよう。
まだいたのか。とっととどこかに行ってほしいと弥宵は呆れ気味にため息を吐いた。
結歌璃の興味の矛先が弥宵から糢嘉へと向けられる。
「ねえ、ねえ、松崎くん。いつから弥宵と仲良くなったの?」
学校で弥宵と糢嘉が一緒にいたことは一度もない。
そんな二人が学校にも行かず平日の午前中に意味ありげに歩いていれば、たとえ結歌璃ではないほかのクラスメイトだったとしても謎解きをしたくなるであろう。
糢嘉は自分と弥宵の関係を結歌璃にどう伝えるべきかと考え込む。
「恋人です」なんて真実を言えるはずもなく……。
そこに弥宵がすかさずフォローに入る。
「滝寺さん。モカ、困ってるから」
「モカ?」
結歌璃は首を斜めに傾けて、誰だっけ? といった顔をしている。
結歌璃の頭の中で『松崎くん』イコール『モカ』が結びつかない。
「モカのフルネームを知らないの? 松崎糢嘉だよ」
「えぇー! 松崎くん、弥宵から下の名前で呼ばれているの⁉ 良いなあ~! ずっるぅーい! ねえ、ねえ、弥宵。ワタシのこともユカリって呼んで」
「呼ばないよ。それより滝寺さん、ここで何しているの?」
弥宵の声のトーンが段々と低くなる。
あきらかに弥宵は結歌璃にイライラしている。
「ワタシとライン交換してくれたら、教えてあげる」
どんなに弥宵から冷たい態度をされても、それにめげることなく結歌璃は交換条件を持ちかけてきて己の思うがままの道を突き進む。
恐るべし、天然!
そしてなんという図太い神経の持ち主だろうか。
「そう、残念だな。僕、滝寺さんとライン交換したくない。じゃあ僕たちはこれで。モカ、行こう」
弥宵と結歌璃の会話はまるで喜劇だ。
そして弥宵は結歌璃とのライン交換は即座に断った。
糢嘉には簡単に教えたのに。糢嘉には弥宵のほうから「番号とメアド教えて。ライン交換もしたい」と積極的に言ってきたのに。
糢嘉には結歌璃のように自慢できるような大きい胸はないけれど、弥宵の胸に抱きしめてもらえる特権を持っている。
弥宵の胸の奥底に潜む熱情は糢嘉だけを想っている。
永倉弥宵は松崎糢嘉だけを愛しているのだ。
弥宵と糢嘉に置いてきぼりにされた結歌璃は、
「あぁーん! 待ってえ~! 花苗を探してるの!」
とある人物の名前を述べた。
結歌璃ほど強引ではないが、花苗も弥宵に好意を寄せている女子の一人である。そしてクラスメイトだ。
「ワタシが駅のトイレに入っている間にね、花苗に外で待っててもらったんだけど、トイレから出たら花苗がいなくなってたの。スマホに電話してもでないし。しかもね、しかもね、さっき花苗から『助けて』ってラインがきたの! すっごく心配! もう花苗ったらどこに行っちゃったのお~?」
結歌璃の深刻みのない軽々しい話し方に、
「……本当に心配してるの?」
と、弥宵は疑念の視線を結歌璃にぶつけた。
「心配してるよ。花苗は一番の友達だもん。親友だもん」
結歌璃のすがりつくような困った顔を見て、弥宵は正直厄介だな……と思ったが、それでも、
「僕も一緒に探すよ」
こんなふうに協力的になってしまうのは、結歌璃から花苗を一緒に探してほしいな。と目で訴えられているのと、この場が今、みんなで花苗を探すのが当然! といった雰囲気になっているからだ。
そしてこれは弥宵の優しさによるものでもある。
だけどたった今、糢嘉に結歌璃との関係を嫉妬されたばかりだ。
この人探しの手助けは糢嘉を不機嫌にさせてしまわないかなと弥宵は不安になる。
「モカ、ごめんね」
叱られるのではないかと怯えるように謝られては、糢嘉も怒れるはずがない。
むしろここで怒ったりなんかしたら人格を否定されそうだ。
「あ、いや……。なんか事件に巻き込まれていたら大変だし、俺も探すの手伝うよ」
「えっ⁉ 事件⁉ いやあーん! こわあーい!」
「滝寺さん。ちょっと黙っていてくれないかな」
弥宵は「一緒に探すよ」と言ったことに早くも後悔した。
「弥宵は松崎くんとここで何しているの?」
「またその話?」
まだ結歌璃はこだわっていて、弥宵からしつこくてうんざりだという態度を示されても引き下がろうとはしない。
それに弥宵も糢嘉に対してはうんざりするほどしつこいため、結歌璃のことをそこまで偉そうに責められないのだ。
「だって気になるよおー! 弥宵と松崎くんが一緒にいるなんてすっごく意外なんだもん。これは教えてくれてもいいでしょう?」
ここで言わなければ結歌璃から毎日質問責めされそうだ。
諦めた弥宵は結歌璃の顔も見ずに、ほぼ投げやりなかんじで事情を説明することにした。
「学校サボッて喫茶店でモカと一緒にコーヒーを飲んでたんだよ」
それを聞いた結歌璃の瞳が爛々とかがやき、大きく前に一歩踏み出して弥宵に詰め寄る。それに警戒した弥宵は結歌璃から一歩後ずさった。
「弥宵も学校サボッたりするんだあ~。ビックリ~。でもそんな意外性なところも素敵。ますます好きになっちゃった」
結歌璃が弥宵と糢嘉の間に割り込んできて、再び弥宵の腕に自分自身の腕を絡ませる。
ところが、今回は前回と違って糢嘉の腕にも絡みつく。女特有の柔らかい豊満な胸の感触のおまけもつけて。
「じゃあ弥宵と松崎くんはお友達なんだね。モカくん、これからヨロシクネ!」
数分前まで糢嘉の名前も知らなかった結歌璃が弥宵と同じく「モカ」と呼ぶ。
お調子者なのか。楽観的なのか。
これからは弥宵だけではなく、糢嘉も結歌璃の餌食になることだろう。
あの落ち着いた喫茶店でコーヒーを飲むのは後回しになってしまったが、結歌璃の親友、花苗の「助けて」が気がかりだ。
本当に花苗はなんらかしらの危険な事件に巻き込まれているのだろうか?
それとも、ただの悪ふざけなのだろうか?
結歌璃と花苗は弥宵と糢嘉を騙しているのだろうか?
結歌璃と花苗は心で結ばれた友情?
それとも、悪巧みで結ばれた友情?
さあ、真相を探しに出かけよう。